黒鯨亭

解説

「激情の嵐」「嘆きの天使」のエミール・ヤニングス及び舞台で評判のアンゲラ・ザローカーとが主演する映画で、フランスのマルセル・パニョールの名戯曲『ファニー』を翻案映画化したもの、脚色ならびに監督には「化石騎士」のフリッツ・ヴェンドハウゼンが当った。助演者の主なものは「激情の嵐」のフランツ・ニクリッシュ、「勝利者」のマックス・ギュルストルフを始めとして「少年探偵団」のケーテ・ハーク、マルガレーテ・クップァー、等である。撮影はエミール・シューネマン、音楽はワルター・コロ、の担任。

1933年製作/ドイツ
原題または英題:Der schwarze Walfisch

ストーリー

ドイツの或る港に黒鯨亭というキャフェがあった。ここの亭主をペーターといった。ペーターは陽気な好人物で、今は男やもめ暮しをしている。彼の唯一の誇りであり愛情であるのは一人息子のマルチンである。だが、このマルチンは父への愛も深かったが、それよりも海に憧れていた。いや、彼には既にファニーという可愛い恋人さえ居たのだが、そのファニーへの愛にも増して彼の海へ惹きつけられる力がより大きく、より深かったのだ。ファニーにはこのマルチンの気持がよく解っていた。そこで男から父親を棄ててそっと海へ出て行くという決心を打ち明けられた時にも、それに同意したのだった。この頃には、実はもう彼女の体内には二人の愛が結んだ小さい生命が宿っていたのだが、それすらファニーは男に言わなかった。そしてマルチンが海に出て行ってしまうと、絶望と怒りを感じたのはペーターである。己れの最大の誇り愛情が、父親にも告げずに黙って海へ出て行くとは何事だ。だがペーターは、それと同時に淋しく悲しかったのでもある。ファニーの秘密がとうとう、母親の知るところとなった時、母親は父なし子を生む前に彼女を早く結婚させようと考えた。選ばれたのは、ファニーを昔から愛している中老の商人パニースである。だが、ファニーは秘密を抱いたまま、結婚する事は心苦しかった。彼女は一切をパニースに打ち明けた。しかしこのパニースは善良な男である。俺は女房と子供とが一遍に貰えるのだ、と彼は喜んだ。それ位に彼の情けは大きかった。しかし、この結婚を聞いて、ペーターは怒った。ペーターにとってはファニーは永久に己れの息子マルチンの嫁である。そこで彼はファニーの心変りをせめた。だが、一切の事情を知った時、彼はパニースの侠気に改めて感じ入った。そしてファニーとパニースは結婚した。パニースは生まれた子に己れの名と家を与えた。ファニーに幸福な年がめぐって行った。だが、その時、マルチンが再び帰って来たのである。彼にはファニーがやはり忘れられなかったのだ。それに二人の間に生れた子が成長した事も聞いた。マルチンはファニーと、それから己れの子供に会いたいと思う。だが、マルチンはいかにも生みの親ではあるが、本当の親は誰なのだ。それはパニースじゃないか。それに皆は今のままで幸せなのだ。それを騒がせる事はない。で、ペーターはマルチンに言った。しっかりしろ、お前はもう一度海へ帰るんだ。そしてあれ程に愛している息子だったが、ペーターはそれを再び海に帰してしまうのである。

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