居酒屋(1933)
解説
フランスの古参の監督者の一人たるガストン・ルーデェが作った映画で、エミール・ゾラの名著により、脚色も彼が行ったものである。出演する俳優は我が国には馴染が薄いが、「炭坑」「巴里の破壊」のダニエル・マンダイユ、舞台出のリーヌ・ノロ、アンリ・ポスク、アレクサンダー・リニョオ、「恋のサルタン」のフランス・デリア、等の人々が出演し、「プレジャンの舟唄」のマルト・ミュシーヌ、踊り手のミシェル・ジャスマン、イヴォンヌ・シェフェル、それから知名の歌手タルキニ・ドール、等が助演している。撮影はS・ユーゴーの担任で、バックとティモリーの二氏がそれを補助し、作曲はパディーが行った。ラジオ・シネマ式発声になるパリジエンヌ・シネマトグラフィーク作品である。
1933年製作/フランス
原題または英題:L'Assommoir
ストーリー
女の細腕に自分の分まで稼がせながらランチエは同棲していたジェルヴェーズを捨てて他の情婦の許に走った。二人の子供を抱えながら途方に暮れていたジェルヴェーズに、子供もろとも引き取ろうと申出たのは実直な職人クーポーだった。で、クーポーと結婚してからは彼女にも幸福な生活がめぐって来て、開業した洗濯屋は繁昌するし、二人の間に女の子ナナも生れ、もうこれ以上の望みはなかった。だが、やがて或る日、この平和が掻き乱される時が来る。それは一時、姿を消していたランチエが再びこの界隈に立ち戻ったからである。で、暫くしてランチエは巧みにクーポーに取り入って、彼に酒を呑む面白さを教え込んでしまう。しかも、揚句の果ては、ズルズルに彼の家へ入り込み、そしてジェルヴェーズに昔の生活の復活を迫るのであった。だが、この時分には、肝腎の一家の心棒になる可きクーポーが酒に身を持ち崩していたので、ジェルヴェーズを守る人もなく、また家業が日々に荒んで行くのを持ち堪える事は当底、女のジェルヴェーズ一人では出来ようもなかった。で、一家は不幸と貧困のどん底に落ちて行った。ナナも、十四の春を迎えた年に、父親の虐待に堪えかねて家出し、踊子になるし、ジェルヴェーズも、もう自棄になって酒を呷る様になった。それでも、クーポーだけは相変らず酒びたりで暮していたのだが、遂には酒で頭が狂い出し、精神病院に送られる。そして、そこで怖ろしい幻影にさいなまれながら彼は息を引き取った。この世に一人取り残されたジェルヴェーズは、生活する力も尽きて、夜の街に立った。が、そこで不図、彼女の出会ったのは昔から、ずっと彼女を想っていて呉れた鍛冶屋のグージェエだった。彼はジェルヴェーズを己れの家に伴って行った。彼の今に変らぬ温かい情けに、彼女の頬を濡らすのは、夫の死目に会っても流れなかった、熱い涙であった。