オルフェ(1950)のレビュー・感想・評価
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鏡と手袋と硝子売りの青年
以上が久し振りの観賞でも印象的で面白かった(手袋がゴム手袋だったのにはびっくりした。私の記憶では革の手袋だった)。スローモーションとか、ノーランや「ヨーロッパ企画」の時間の逆行をいっぱい試してる映像とは思ってなかった。
美しい「死」の彼女の愛ゆえにオルフェをもとに戻すとは!その分、妻をもっとゴージャスかもっと清楚かもっと力強い女性にして欲しかった。
ジャン・マレーの声と顔と身体と髪の美しさに惚れ惚れというより、崇める思いになりました。
感性に訴え掛けるジャン・コクトーの生と死と愛のイマジネーションが素晴らしい映画の詩
フランスの天才詩人ジャン・コクトーがギリシア神話のオルフェウス伝説を現代に移し変えた原作を自ら演出した不思議な魅力に溢れた映画。イメージ優位の映像が詩的な神秘性に達すると、残るは不気味なほどの畏敬の念である。(1975年12月13日地上波テレビ)
詩人コクトー独自のイマジネーションに魅せられる、物語を単に語る範疇の映画とは一線を画す傑作。ストーリーや登場人物を現実の世界に当て嵌めて理解しようとしても納得できる答えが見つからないのに、とても面白い。オルフェの自宅の現世と廃墟のような死の世界のコントラスト。生と死の境界を鏡一枚で表現した演出のユニークさ。死の世界に足を踏み入れたオルフェの動きと撮影による幻想的な雰囲気。スローモーション、逆再生、スクリーン・プロセスなどを駆使して超常現象を詩的な表現に昇華させている。これが映画ならではの面白さであり、映画が成し得る魅力である。(1980年1月18日フィルムセンター)
演出で唸らされたのは、郵便配達員が門の鈴を鳴らすショットと6時の時計の音。オルフェが死の世界に行って戻って来るまでが現世では一瞬とする精神世界の描き方。死の世界に時間は存在しない。それはまた永遠を意味するのだろう。役者では主演のジャン・マレーもいいし、運転手ウルトビーズのフランソワ・ペリエも素晴らしいが、一番の魅力は死の女王のマリア・カザレスの毅然とした佇まいに一途な想いを秘めた愛の情念の表現力である。最後の涙の美しさが、純粋なる愛の証明になる。
「美女と野獣」のレビューで書いたように10代の頃にジャン・コクトーの詩集を一冊読んだものの全く理解できなかった。だが、たった一つの詩に惹きつけられてしまう。それは青二才の少年が自惚れと自己嫌悪の狭間で彷徨う中、漸く見つけた光明であった。
僕は太陽がまともに見れる
そなたの眼にはそれが出来ない
これなんだ僕の自慢の芸当は
たった一つの勝味は
1975年の17歳に記録したテレビ見学の年間ベストを振り返ってみます。今となっては、この頃が映画を貪欲に、また偏見なく楽しんでいたように思います。
①わが谷は緑なりき②自転車泥棒③風と共に去りぬ④死刑台のエレベーター⑤真実の瞬間⑥荒野の決闘⑦駅馬車⑧汚れなき悪戯⑨居酒屋⑩オルフェ
⑪戦争は終わった⑫奇跡の人⑬ジョニーは戦場へ行った⑭冒険者たち⑮アパートの鍵貸します⑯サムソンとデリラ⑰コレクター⑱好奇心⑲別れの朝⑳さよならコロンバス
㉑パリは燃えているか㉒地上最大のショウ㉓ビバ!マリア㉔バス停留所㉕シンシナティ・キッド㉖ローズマリーの赤ちゃん㉗OK牧場の決闘㉘真昼の暴動㉙地下室のメロディー㉚遙か群衆を離れて
次点・ジョンとメリー、栄光への脱出、さらば友よ、女と将軍、白鯨、傷だらけのアイドル、バーバレラ、悪い奴ほど手が白い、マーニー、わらの犬、バッファロー大隊、白い肌の異常な夜、トム・ソーヤの冒険
上位に選んだ中で特に好きな映画は、ルイ・マルの「死刑台のエレベーター」とフランチェスコ・ロージの「真実の瞬間」の二作品で、背伸びして選出したのがジャン・コクトーの「オルフェ」とアラン・レネの「戦争は終わった」でした。もし自分に誇れるほどの才能が有ったら、このフランス映画のような感性に訴え掛ける作品が創りたいと幻想を抱いたのもです。私が思う理想の映画の形の一つが、このコクトーの「オルフェ」でした。
天は二物ではなく、四物を与えてしまった‼️
この作品を観ているとジャン・コクトーという人はホントに天才なんだなーと思います‼️ギリシャ神話の有名なオルフェの悲劇を、現代のパリに置き換えて描いているわけですが、ラジオから冥界の詩が流れてきたり、オートバイに乗った死神が登場したり、鏡を通り抜けて行き来する死の世界とか、アイデア溢れる映像表現とモノクロ映像の効果も相まって、今観ても十分美しいと思います。ジェラール・フィリップ、アラン・ドロンと並ぶフランスの美男子と称されたジャン・マレーも頑張ってますが、やはりマリア・カザレスの影のある美しさですね。もうホントに死の国の王女にしか見えません‼️「美女と野獣」もそうでしたがジャン・コクトー監督はホントにスゴい‼️これで詩人で小説家で画家なんだから、一物も与えられてない者はどうしたらいいんだろう(笑)
映画のマジックだ。
逆再生や鏡のトリックを使っていて
とにかく楽しく観れた一作。
毎シーン、これどうやってんだ?って
考えながら観るのも楽しい。
マリア・カザレス演じる“死“の格好良さよ。
“死“たちの関係もよくて、
ラスト退場するシーンも良かったですな。
手袋買ってオルフェごっことかしたくなる映画でした。
妖しく美しい死神と時空を超えた恋愛FS
実に70年前の映画なのだが、未だ健在?の鏡を出入り口とするあの世とこの世を出入りする物語。殺し屋は何故かオートバイでやって来るのが新鮮。そして、身重の妻がありながら、冷たい美貌の死神に抱く詩人の恋心。でも死神様は、自ら犠牲となり、詩人夫妻を元の鞘に戻す。
フランス文学の様に、単純でない複雑な男と女の感情が織りなす模様に、言わばSF的に死後の世界をも描いていて妖しい魅力を放っていた。鏡の中に、水に浸かる様に入り込む描写は出色。最後に、カミュの愛人だったというマリアカザレスの静かな情熱的な美貌が余韻として残った。
詩人の愛
コクトーは ドイツ占領下のパリと 自分の身に起きたことを、オルフェウス伝説に絡め 映画にしたようだ
死神、黒い高級車、冥界での査問委員会はナチスを連想させ (でも 車はロールスロイスなのだ! )
使い魔の様なバイク乗りは 暗殺者、親衛隊のイメージだろうか
冒頭で死んでしまう新進気鋭の詩人セジェストは
夭折の天才レイモン・ラディゲに、
死神に誘惑されてしまう詩人オルフェは
ラディゲ亡き後、衝撃のあまり阿片中毒になってしまった コクトーに重なる
詩人カフェでの疎外感、つけ狙う新聞記者、彼を告発する知人、押し寄せるファン、オルフェを殺してしまう文学青年達に コクトーの苦悩が見られる
そんな中、映像表現では 様々な工夫がされている
鏡が大きな役割を果たすが〈 鏡 × ジャン・マレー 〉の取り合わせに うっとり…
また それはマレーの美貌への自己陶酔に見えるが、詩人コクトーのおのれの才能への陶酔ではないだろうか
最後のオルフェと妻の抱擁は
死の誘惑から逃れたコクトーとマレーの喜びだろうし〈パリ開放の歓喜〉にも重なる
死神(カザレス)の涙は オルフェだけでなく、パリを手放す(ドイツの)悲しみも意味するのだろうか
色々なことが重なり マレーを手放さざるおえなくなっていったコクトーの悲しみでもあるのか
いずれにせよ、コクトーとマレーの運命的な結びつきを感じさせる作品だった
フランス共産党の実態への批判
死神の王女役のマリア・カザレス!
彼女の美しさだけで観る値打ちがある
小柄であり得ない程に細く華奢、知的な面立ち
白い肌に黒い長い髪、切れ長の大きな瞳
正にこの世のものではない美しさを体現している
彼女はフランス共産党の理想を象徴している存在だ
だから限りなく美しく描かれている
物語りはギリシャ神話をそのまま現代に翻案したもの
鏡を通り抜けて向こう側の死の世界に行き来するシーンは単純な特撮ながら効果的なイメージを提供して、戦後まもなくとは思えない
地獄の査問委員会、王女、ラジオから流れる詩文による暗号文、乱数、モールス信号
これらはおそらく戦時中の地下抵抗組織の記憶によるものだろう
正確にいうならば、フランス共産党の地下組織だ
ソ連からの指令に基づき表の世界の抑圧者を排除せよだ
詩人などのフランス知識階級は派閥争いをしながらも、そこに参画しようとする
しかしその実態は、結局のところソ連の思惑で動く存在なのだと知る
フランス人とフランス国家の為ではない
共産党に従うのなら、その現実を決して見てはならないのだ
見たら愛国心は死んでしまうのだ
ソ連からの指令に依らない行動は査問委員会に掛けられてしまうのだ
戦後、フランス共産党は公然化して一大勢力を誇ることになったが、その実態は鏡の向こう側の指令で動いていたのだ
だから、王女は査問委員会に歯向かい主人公たるフランス知識人の味方たろうとする
しかしそれは露見し逮捕されていくのだ
そして主人公は王女を忘れ、彼の妻すなわちフランス国家への愛国心を取り戻して終わるのだ
つまり本作はフランス共産党の実態を示し、批判する映画なのだ
ソ連もとうに崩壊し、共産主義への理想も幻想ももはや超絶的な美貌の王女なのではなく、ボロクズを纏ったミイラになり果てている
そんな21世紀に本作を観る我々には、そんな寓意はもはや読み取る事は難しい
ただのファンタジー映画としかもはや見えないのかも知れない
当時のヨーロッパの知識人はこの寓意をキチンと読み取り、栄誉あるヴェニス映画祭監督賞与えたのだが、果たして日本ではどうなのか?
本作のテーマは今日もなお日本のメディアの人々こそ観るべきテーマなのだが、果たしてこれを読み取れ、そのメッセージを正しく受け取れるのだろうか?
暗澹たる気持ちが広がるのみだ
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