穴(1960)のレビュー・感想・評価
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タイトルは穴でも全く穴のない脱獄映画の傑作
パリで実際に起きた脱獄事件を題材にした脱獄ものの傑作で、全編にわたり緊張感が途切れることのない監督のジャック・ベッケルの手腕に感服しました。五人の未決囚が雑居房の床板を剥がしコンクリートを砕いて地下水道から脱獄する極めてシンプルなお話しです。脱獄ものによくある、冷酷な刑務所長や看守も出てこないし、主人公達と対立する囚人も出てきません。とにかくひたすら、コンクリートを砕きセメントを崩し鉄格子を切断するシーンが延々と続くだけの展開なのに、画面から目が離せないのは、多くを語らない男たちの絆と目的に向かってのひたむきさに強い共感を感じるからです。こう言うお話は、さすが原作・脚色担当のジョゼ・ジョバンニの独断場と思ったら、彼自身が実行犯の一人との事で納得。役者では、実際に事件に関わったジャン・ケロディが、若い時のアンソニー・クインのような風貌で素人とは思えない達者ぶりです。獰猛な顔つきのミシェル・コンスタンタンも、いい役どころでした。
ラストよ
繰り返し波状攻撃的にやってくる小ヒヤヒヤ・中ヒヤヒヤ・大ヒヤヒヤを乗り越えたと思ったら!潜望鏡を反転させた瞬間のゾッとする感じは忘れられない。/あれだけ音を出してもそれによって疑われることがないのは、監獄という場を支配するのは物理ではなく心理的要因だからだろう。配管工のくだりもそんな感じだし、オチは言わずもがな。/音も汗の質感も妙に生々しくリアル。モノクロの良さである。
実話!!
しかも、実際に脱獄した当人(ジャン・ケラウディー)も出演しているという!!物語はとてもシンプルで、看守の目を盗んでひたすら穴を掘るだけですが、とってもスリリングでした。この脱獄が成功するのかが主旋律だとすれば、囚人5人の関係性が副旋律ですね。個人的に「極道めし」(11)が好きですが、狭い空間で大の男たちが1日中一緒に暮らすという極限状態で起こる化学反応が見所です。クライマックスが見事ですね。
ちょっと息苦しくなった
カンコン、カンコン・・・こんなにでかい音を立てても平気なのか?などとも思いつつ、狭い通路を通り抜け脱走を試みる5人の囚人。床のコンクリートを叩き割り、地下通路まで到達してからもスリル満点。そして地下水路に向けてまた穴を掘りだす。こんなに単調な作業だけれども、なぜか引き込まれる。夜中の作業は二人ずつ交代で、チームワークも完璧。
何日もかかる作業がほんとに大変。「眠っておけ」などと仲間を励ますところもいいんだけど、つい眠くなってしまう場面もあった。そんな中で気に入ったのが、二人欠けた就寝時に人形を使って足を動かしたり、盗んできた薬瓶で砂時計を作ったりと、凝ってるところ。
さらにモノクロの中で噴き出す汗と落盤事故が強烈。『大脱走』の時に感じた息苦しさと同じだ。このまま彼らは脱走できるのか!?それとも・・・と、すべて実話だというから驚きだ。
相手の視線をコントロールできれば勝ち。
THE 名作。
どんでん返しのストーリーが無くても、展開に緩急をつけるだけでここまでの衝撃を最後に生み出せるという、まさに職人芸の極致。
ルーティーン化して、緊張が解けて油断した所にいきなりぶっ込んでこられると、全くかわしようがないんだなあ。そして我々は120分の間、名匠ベッケルの掌で踊らされていたことに気付く。
このカウンターを受けてKOされた者は幸運である。
どうしてこんなに美しいのか
『現金に手を出すな』を観た時も思ったんですけど、ジャック・ベッケルの画面ってなんでこんなに美しいんでしょう。特にアップで人物を撮った時の感じが、すごい好きなんですよね。『現金に』の時は、そうやってアップで撮られた時のジャン・ギャバンの存在感が、美しさとともに強く感じられたのが印象的だったんですけど、今回も同じような美しさを感じましたですね。
ザックザックと無限に続くかのような穴掘りには圧倒されましたし、こうした時に変に表情とか映さないところとか、あぁ、映画なんだなぁって感じましたですね。
リアルなプリズンブレイク
ジャック・ベッケル監督の「穴」を久々に鑑賞してみる。この映画、やっぱりスゴイ。脱獄映画っていろいろあると思いますが、ここまでリアルというか、脱獄ってこうやるんだな…と思わせられる映画もないんじゃないですかね。とにかくディテールに凝っているというか。
はじめ、床に穴を開ける時に、あれだけ大きな音を出しながらなぜ気付かれないのか、という疑問は置いておいて、床をガツンガツンたたきつける「だけ」のシーンを長回しで見せるのがなぜかやたらと効果的で、気がつけば画面から目が離せなくなっちゃうんですよね。小道具の使い方、機転の利かせ方、そして長回しと音の効果。穴を掘る場面といい、ヤスリで檻を削る場面といい、過剰なくらいじっくりと時間をかけて見せられますが、それがものすごく臨場感を生んでいて、まったくいやみな演出になっていないところに感心しきり。セリフと効果音以外の音がまったく使われていない映画でもあるんですが、それでも雰囲気をここまで盛り上げることが可能だという、一つの好例じゃないでしょうか。
あ、あと脱獄するためにメンバーで力をあわせて頑張る、というとてもシンプルなプロットではあるんですが、しっかりと一ひねり効いていて、観終わった後に「情けない奴だ」と言ってみたくなります、きっと。
ここまでリアルな演出に凝りながらも、エンターテイメントとしても成立している映画、脱獄映画に限らずそんなに多くないと思うし、結構貴重な作品だと思いますね。
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