「世紀末から20世紀初頭のウィーンの空気こそが、本作の主役だったと思う 案外に深いものがある」恋ひとすじに あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
世紀末から20世紀初頭のウィーンの空気こそが、本作の主役だったと思う 案外に深いものがある
ロミー・シュナイダー20歳
まさに輝くばかり
ピンク色の健康的な肌
広く丸い額に伸びる意志の強い細めの眉
目は大きく青い
ただ少し目の間が広い
15歳でデビュー、17歳でアイドルとなった
アラン・ドロン23歳
まだ少年のあどけなさが残っている
実にかわいい
この時はまだ無名の新人
二人は本作がきっかけで同棲し婚約までする
それぞれの第一印象は互いに酷いものだったそうだが、映画の中の恋愛が本当になってしまう
良くある話
だがドロンが1960年の「太陽がいっぱい」でブレイクするとすれ違いの生活となり、1963年に婚約は破棄される
これも良くある話
結局、籍は入ってないし、子供もいない
お話は男爵夫人との不倫関係の竜騎兵の将校が、平民の美しい娘と出逢い、本当の恋を知る
しかし不倫が男爵にバレて・・・というもの
内容は大したものはない
退屈ですらある
舞台は1906年のウィーン
当時のウィーンはパリにつぐ最先端の都会だった
ロンドンよりもベルリンよりもずっと
19世紀の宮廷の文化が平民のレベルにまで一般化しつつあった都市
クリムトの絵画で有名なウィーン分離派の芸術活動は世紀末のころをピークに一段落した頃
クライマックスにベートーベンの運命の演奏練習シーンがある
もちろん物語に合わせたものだが、1901年にクリムトがウィーン分離派会館に描いた巨大壁画「ベートーヴェン・フリーズ」を意識しているのは間違いない
2019年にクリムト展、ウィーンモダン展と立て続けにウィーン分離派に関係した美術展が日本で開催されたばかり
「ベートーヴェン・フリーズ」の原寸大での再現壁画もその時に鑑賞できた
本作は、その時代の20世紀の文化が最初に花開いたウィーンの空気が大変に良く研究されて再現されていたと思う
ウィーン観光名所こそ登場はしないものの、世紀末から20世紀初頭のウィーンの空気こそが、本作の主役だったと思う
シュトラウスの青きドナウの調べを平民が蓄音機で踊るシーンと、ブルク劇場での皇帝陛下御臨席のオペラ上演シーンの対比
男爵夫人とクリスティーナとの対比
男爵とフランツとの対比
全て19世紀と20世紀との対比だ
考えてみれば、ウィーン分離派の芸術運動と同じ捉え方だ
しかし結末は20世紀の死で終わる
その矛盾は、やがてくる第一次世界大戦で19世紀的なるものは、木っ葉微塵にされることにつながるのだ
クリムトは第一次大戦が終わった1918年に死んでいる
役割が終わったかのように
案外に深い映画だ
ちなみに1948年の「忘れじの面影」の舞台もほぼ同時代のウィーンです