狼たちの午後のレビュー・感想・評価
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人情味の欠いた組織が強引に事件を解決した、との皮肉の集大成としたかったのだろうか?
シドニー・ルメット作品は、
数えてみると20本近く観ている位、
数多くの名作で堪能させて頂いた監督だが、
TV放映を機にこの作品を再鑑賞した。
しかし、正直なところ、過去の鑑賞では、
他の作品と比べて、それほど好きになった
作品では無かった記憶がある。
今回、改めて観てみると、
犯人や地元警察官のみならず、
何故か人質や野次馬までも
目立ちたがっているかような
劇場型銀行強盗事件という様相の作品に
感じた。
お粗末な強盗犯人ならではあるのか、
悪人に成りきれない犯人の性格もあってか、
何故か連帯感が生まれてくる
地元警察官・人質・野次馬とのエピソード
には、皮肉が満載だ。
そして、それまでの人情味溢れる展開が、
FBIの登場で事件を解決に導いたが、
それまでの人情劇場を否定するという、
これも皮肉の集大成としたかったのか、
良く分からないまま鑑賞を終えてしまった。
ただ、「十二人の怒れる男」や
「プリンス・オブ・シティ」等と比べる、
登場人物の俗物性が表に出過ぎて、
社会派ドラマ作家を標榜する
メリット監督作品としては、
その目論見が少し緩んでしまう題材
だったような印象を受けた。
ストックホルム症候群
三人組の銀行強盗が押し入るが、一人は今更ながら嫌だと言って出ていってしまう。
残った二人の内、リーダー(アル・パチーノ)は警察に取り囲まれたと知り、脱出方法を考える。
もう一人(ジョン・カザール)は無知で人を殺したくてウズウズしている。
実話でドキュメンタリー感覚だけど、緊迫感は伝わってきて、最後は死人が出ないことを祈るのみ。
犯人に全く同情も共感もできない
あれよあれよという間に…
タクシー・ドライバーと表裏一体
アル・パチーノが素晴らしい。監督は演技のほとんどを役者のアドリブに任せたらしいと知り驚いた。脚本=構成がしっかりしているのと、パチーノの演技がとりわけいいから可能だったんだろう。
サル(ジョン・カザール)がベトナム帰還兵だということは冒頭のソニー(パチーノ)の言葉でわかった。ソニーは銀行の業務に詳しく銀行で働いていたからだと本人も言っていた。そのソニーもベトナム帰還兵だったことはかなりあと、空港にむかうバスの中?いや、銀行にたてこもっているソニーに会いに来た母親が言っていたのか?そこで知った。
サルは口数少なく極端と言えるほど人を信頼できない。恐怖感から逃れられず危険な空気をずっとまとっていた。何をしでかすかわからない。それをソニーはよくわかっていてサルが暴発しないように常に気をつけている。サルの危険性は警察もFBIもわかっていた。とはいえ結局何もしなかったにも関わらずサルは呆気なく額を撃たれて殺された、警察によって。「アッティカ!」と叫びたくなった。
ソニーもベトナム帰還兵なのか。銀行で人質の女の子に銃の扱いを教えていた。ソニーの個人的な理由によって企てられた銀行強盗は確かに計画的でなく杜撰だ。だがその無計画性がわかってからもソニーは冷静を保ち人質を安心させ人質の健康状態や食事などに配慮した。監視カメラ、裏口チェック、盗聴、警察やFBIとのやりとりや身体チェックも用心深く行う。だからソニーは強盗の行動面から見ればかなり完璧だったと私は思った。ただ、実行に移すまでの日々はかなり狂っていた、或いはおかしかったようだ。それは恋人のレオンや妻のアンジーのことばからわかる。保険がないから(だったかな?)職を得られない、妻のアンジーとやっと電話で話しているのに妻は日常的な夫婦喧嘩状態でソニーの言うことに耳を傾けない。母親も色々とまくしたて嫁の悪口を言うだけで息子の話を聞いていない。レオンも自分がいかに病院で辛かったか、あんたと別れたかったと言うだけでソニーのことばも気持ちも聞いていない。それでもその三人へのソニーによる「遺書」は彼らへのあたたかいことばに満ちている。
人質達とそれほど悪くない、良好とも言える関係を築いていたのに、空港に着いて解放された人質たちは一人としてソニーの方を振り向かなかった。あちらへ行く人質の背中を見て、こちらでは担架に載せられたすでに死んだサルを見てソニーは涙を流す。
タクシー・ドライバーのトラヴィス(デニーロ)と同じじゃないか。トラヴィスとソニーは違う。性格も人との関係性もまるで異なる。けれどベトナムから戻り、何か違う、なぜ自分はこんな環境に置かれているのか、変だ、おかしいと思っている。おかしいのは自分か?周りか?それもわからない。
前半はすごく笑える映画だった。でもコメディではない。警察権力、マスコミ、応援したり好奇心丸出しだったり目立ちたがり屋の大衆、マイノリティに対する偏見、1975年の映画だけれど今と変わってない、或いは今だって何も変わってないじゃないか。
ゲイたちの午後‼️
真夏の午後。ニューヨークのブルックリンの銀行を、アル・パチーノら3人の男が銀行強盗。しかし銀行に金はなく、ちょっと優しいパチーノに人質は安心してのんびり。二百人もの警官とFBIが取り囲み、大群衆といえる野次馬が集まり、たくさんのメディア、そしてパチーノがゲイとわかって、ゲイ・グループが応援デモを始める始末。そしてパチーノは英雄扱いへ・・・‼️「ゴッドファーザー」のマイケル・コルレオーネもいいけど、アル・パチーノの演技力が頂点を極めた作品だと思います‼️狂気に満ちたパチーノの演技力のお陰で、ドジな銀行強盗がとてつもない哀れみを感じさせる愛おしいキャラに思えてくる‼️マスコミから英雄扱いされて、ちょっと調子に乗るパチーノがホント微笑ましい‼️ワクワクするようなキャラクター描写ですよね‼️そして鋭い洞察力でマスコミの強引な取材合戦を風刺する偉大なるジャーナリズム映画でもあります‼️加えて世界最高の強盗失敗映画‼️どんな観方をしても素晴らしい名作ですね‼️共犯を演じるジョン・カザールとアル・パチーノの共演は、「ゴッドファーザーPART2」といい、この作品といい、映画史に残ると思います‼️「十二人の怒れる男」や「オリエント急行殺人事件」など、限定された空間での意外な展開が得意なシドニー・ルメット監督の面目躍如な作品‼️ホント、大好きな作品です‼️
計画性の無さが生んだ社会への問題を問いかける作品!
アルパチーノに惹きつけられる
Amazonプライムで再鑑賞。
アル・パチーノとルメット監督が魅せる、予測不可能な犯罪事件を再現したリアリティーの快作
何といっても主演のアル・パチーノがいい。そして、シドニー・ルメット監督の演出が冴えている。ジャンルを付けにくいし、良質の娯楽映画とも言い難いが、兎に角映画として面白い。銀行強盗の計画がことごとく失敗し、遂には大型旅客機で海外逃亡を図る現実にはあり得ないであろう話を、先が読めない展開で一気に見せる面白さ。映画ならではの迫力のあるテンポとリズムの、ルメット監督会心のケッサクだ。物語は実際にニューヨークの銀行で起きた事件で、映画はそれを忠実に再現したという。その為かテーマが無い。何を言いたい映画なのか、解らないまま終わってしまった。主人公の設定がゲイであることが異色と言えばそうかも知れないが、強盗の目的が妻(男性)の性転換のお金欲しさの動機のリアリティーだけである。小心者の犯人が居直ることで起きた珍事件の成り行きを、固唾をのんで見守る野次馬のような映画鑑賞の醍醐味が、この映画の良さでありユニークな面白さであろう。
金だけが目的で強盗に入ったのに、銀行には現金がなく、仕方なく逃げようとしたら、すでに警察官に取り囲まれている。ここで自首するしかないのに、牢獄には入りたくないと孤立する。ズッコケた犯人たちだ。テレビでは実況中継が始まり、犯人らを批判する電話も掛かって来る。相棒のジョン・カザールが、俺はゲイではない訂正しろ、とメディアに言い寄るところが面白い。益々追い詰められる犯人たち。銀行員を殺すつもりなどさらさら無いのに、当然だがそれだけを配慮し心配する警部との会話が、また可笑しい。二人の弱者に、何十人という警察官と数知れぬ野次馬たち。普通の映画らしくなってきた。でも犯人と人質の銀行員との関係には緊張感が無く、チグハグ感が漂う締まりの無い犯罪映画の現実感もある。
展開としては主人公の妻の登場で中弛みの感があるが、夜になって海外逃亡の段取りが出てから俄然雰囲気が変わる。そして、結末の終わり方。事実は小説より奇なり、と言うが、これは事件は映画より帰結なりか。現代の掴みにくい予測不可能な事件を描いた社会派映画のようなこの作品は、犯罪を野次馬する危険性を孕みながらも、映画の新しい面白さに到達している。
1976年 10月20日 高田馬場パール座
ソニーがテレビを凝視するシーンは何故か「SONY」の文字がくっきりと
間の抜けた銀行強盗がお茶の間のスターになる…?
某映画レビューユーチューバーさんが紹介されていた本作。前々から気になっていて、今回ようやく鑑賞できました。
個人的に、本作の監督であるシドニー・ルメット監督は私のオールタイムベスト映画『12人の怒れる男』の監督でもありますので、めちゃくちゃ期待度は高かったと思います。
結論、非常に面白かった!思い付きのような粗末な計画で銀行強盗を実行してしまったために警察に包囲されてしまったちょっと間抜けた男が、周りを囲む野次馬やマスコミを巧みに扇動してテレビスターとして祭り上げられる様子は、昨今のSNSの炎上騒動などにも通じるような恐ろしさや既視感を感じました。ただ、「実話を基にした作品」にありがちなんですが、正直映画としての盛り上がりがイマイチで、『12人の怒れる男』のような爽快感やカタルシスとは異なる映画でした。後味は正直そんなに良くないです。
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ニューヨークの銀行に三人組の強盗が押し入った。しかし、強盗の一人が怖気づいて逃げ出したり金庫の中に金がほとんど入っていないなど、不測の事態が相次いで発生し、最終的には警察に包囲されてしまい、銀行に籠城する羽目になってしまった。警察との交渉のために正面玄関から外に出た強盗団のリーダーであるソニー(アル・パチーノ)は周囲に集まった野次馬たちを煽って囃し立て、次第に周囲の野次馬たちが強盗を応援するという奇妙な事態へと発展する。
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この作品、導入が非常に簡潔で分かりやすい。これは『12人の怒れる男』でも思ったことなんですけど、とにかく序盤にキャラクターの紹介や状況説明のような描写がほとんどなく、いきなり本編が始まる感じなんですよ。本作では映画開始数分後には銀行強盗してますし、『12人の怒れる男』では映画開始数分後には陪審員室に移動して激論が繰り広げられています。とにかく導入が簡潔で短くて飽きない。シドニー・ルメット監督作品の魅力の一つだと思います。
アル・パチーノ演じる強盗のリーダーも良かった。彼が何故強盗をするに至ったのかという経緯が映画の進行とともに次第に明らかになっていくのですが、彼の素性が明らかになっていくにつれてだんだん周りの対応が変わっていったりするところも面白かったですね。最初は武装した強盗に恐怖していた銀行の従業員たちも、彼らの無計画っぷりやドジっぷりを見て、次第に気が抜けていくところもちょっと笑っちゃいました。
作品全体を通じて、70年代の古い映画でありながら現代のSNS文化やポリコレ思想にも通じるようなテーマが垣間見え、全く古さを感じさせない内容になっていました。2000年代に入ってからもモデルとなった銀行強盗事件は何度もドキュメンタリー作品が作られるような、今なお語り継がれる事件です。古い映画だからと敬遠せずに、ぜひ見てみていただきたい作品でした。オススメです!!
素晴らしい。シナリオの手際。
この映画をみた俺は、主人公に対して、「銀行強盗なんかしないで、まっ...
この映画をみた俺は、主人公に対して、「銀行強盗なんかしないで、まっとうに生きればいいのに」 と思う。事件が起きたのは1972年、俺が12歳のときだ。
銀行強盗はあっさり失敗し、銀行員たちを人質に籠城する破目に陥る。
実際に銀行強盗をすると言うソニーとサルにあこがれてついていくルイーズ。しかし序盤で 「もう戻れない」 とさめざめ泣くシーンは、「そんな程度の覚悟でついてったの?」 と驚きですらある。
籠城する破目になったとは言え、人質の銀行員たちとはなんだか仲良くなれるし、LGBTのパートナーの性転換手術の資金がほしいという動機がマスコミにウケて、なんだか人気も高まっているような気がするし、という映画。
冒頭からの、社会の2極化の描写。潤っている方は、プール、テニス、海水浴等で楽しく遊ぶ人々であり、貧しい方は、建設土木の現場、求人を求める長蛇の列。音楽いっさいなしの展開が、リアルを感じさせる。潤っている方の象徴が、彼らが襲う "銀行" ってわけですね。
ストーリーはぜひ観てほしいが、印象的なのは終盤の舞台となる飛行場。そこに、終始響き渡る旅客機のけたたましい発着音。仲良くなったように思っていた人質はみな当たり前のように去り、相棒を裏切り警察に投降する主人公の心の中が空っぽで、外の音ばかりが響いている、という描写に感じられて、アメリカンニューシネマを堪能できました。
おまけ
原題は 「dog day afternoon」、意味は夏真っ盛りの午後、だそうです。
「セルピコ」、「カッコーの巣の上で」、「」
アル・パチーノ独壇場の熱演❗
シドニー・ルメットの演出の視線はドライで、リアルだ。
この事件は、犯人が人質の体調に気遣いを見せたり、警察権力への批判を叫んで路上の野次馬たちから喝采を浴びたりして、テレビを通して全米の注目を集めたらしい。
ルメットは、ほとんどを現場である銀行の扉の内と外を舞台に、刻々と発生する事象を捉え続けている。
演者のアドリブに任せた部分も多かったと聞くが、臨場感のあるリアルな演出で見せる。
この愚かで滑稽な犯罪者を、敢えて愛すべき人物としては描かず、ヒーロー扱いはしていない。
ストックホルム症候群を過度に描くこともしていない。
出ずっぱりのアル・パチーノは、時に激しく、時に優しく、時に情けない様を熱演している。
堀の深いイタリア系の濃い顔立ちに汗を滴らせたアップは、実に魅力的だ。
サル役のジョン・カザールの自閉症的演技も評価されている。
が、この当時の名バイプレイヤーの一人、モレッティ刑事役のチャールズ・ダーニングの巨体を揺らした力演は見逃せない。
なんとか無事に事件を収束させようと熱を振るうのだが、全てFBIに持っていかれてしまう。
ここも、市警とFBIの指揮権争いなどのドラマは描かれず、FBIの指揮官が表に出るとモレッティ刑事は登場しなくなる。
事象だけをクールに見せるのだ。
FBIの冷酷で手際のよい作戦で、悲惨な結末となるが、人質たちは犯人たちの末路を冷静に見つめていて、決して犯人たちと心を通わせていた訳ではないんだと理解できる。
映画のモデルとなった実際の犯人は20年服役したそうだが、映画の収益が配分され、恋人はその資金で性転換手術を受けたというのも、嘘のような本当の話だそうだ。
アル・パチーノじゃなかったら。
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