「タクシー・ドライバーと表裏一体」狼たちの午後 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
タクシー・ドライバーと表裏一体
アル・パチーノが素晴らしい。監督は演技のほとんどを役者のアドリブに任せたらしいと知り驚いた。脚本=構成がしっかりしているのと、パチーノの演技がとりわけいいから可能だったんだろう。
サル(ジョン・カザール)がベトナム帰還兵だということは冒頭のソニー(パチーノ)の言葉でわかった。ソニーは銀行の業務に詳しく銀行で働いていたからだと本人も言っていた。そのソニーもベトナム帰還兵だったことはかなりあと、空港にむかうバスの中?いや、銀行にたてこもっているソニーに会いに来た母親が言っていたのか?そこで知った。
サルは口数少なく極端と言えるほど人を信頼できない。恐怖感から逃れられず危険な空気をずっとまとっていた。何をしでかすかわからない。それをソニーはよくわかっていてサルが暴発しないように常に気をつけている。サルの危険性は警察もFBIもわかっていた。とはいえ結局何もしなかったにも関わらずサルは呆気なく額を撃たれて殺された、警察によって。「アッティカ!」と叫びたくなった。
ソニーもベトナム帰還兵なのか。銀行で人質の女の子に銃の扱いを教えていた。ソニーの個人的な理由によって企てられた銀行強盗は確かに計画的でなく杜撰だ。だがその無計画性がわかってからもソニーは冷静を保ち人質を安心させ人質の健康状態や食事などに配慮した。監視カメラ、裏口チェック、盗聴、警察やFBIとのやりとりや身体チェックも用心深く行う。だからソニーは強盗の行動面から見ればかなり完璧だったと私は思った。ただ、実行に移すまでの日々はかなり狂っていた、或いはおかしかったようだ。それは恋人のレオンや妻のアンジーのことばからわかる。保険がないから(だったかな?)職を得られない、妻のアンジーとやっと電話で話しているのに妻は日常的な夫婦喧嘩状態でソニーの言うことに耳を傾けない。母親も色々とまくしたて嫁の悪口を言うだけで息子の話を聞いていない。レオンも自分がいかに病院で辛かったか、あんたと別れたかったと言うだけでソニーのことばも気持ちも聞いていない。それでもその三人へのソニーによる「遺書」は彼らへのあたたかいことばに満ちている。
人質達とそれほど悪くない、良好とも言える関係を築いていたのに、空港に着いて解放された人質たちは一人としてソニーの方を振り向かなかった。あちらへ行く人質の背中を見て、こちらでは担架に載せられたすでに死んだサルを見てソニーは涙を流す。
タクシー・ドライバーのトラヴィス(デニーロ)と同じじゃないか。トラヴィスとソニーは違う。性格も人との関係性もまるで異なる。けれどベトナムから戻り、何か違う、なぜ自分はこんな環境に置かれているのか、変だ、おかしいと思っている。おかしいのは自分か?周りか?それもわからない。
前半はすごく笑える映画だった。でもコメディではない。警察権力、マスコミ、応援したり好奇心丸出しだったり目立ちたがり屋の大衆、マイノリティに対する偏見、1975年の映画だけれど今と変わってない、或いは今だって何も変わってないじゃないか。