劇場公開日 1976年3月13日

「アル・パチーノとルメット監督が魅せる、予測不可能な犯罪事件を再現したリアリティーの快作」狼たちの午後 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アル・パチーノとルメット監督が魅せる、予測不可能な犯罪事件を再現したリアリティーの快作

2021年12月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

何といっても主演のアル・パチーノがいい。そして、シドニー・ルメット監督の演出が冴えている。ジャンルを付けにくいし、良質の娯楽映画とも言い難いが、兎に角映画として面白い。銀行強盗の計画がことごとく失敗し、遂には大型旅客機で海外逃亡を図る現実にはあり得ないであろう話を、先が読めない展開で一気に見せる面白さ。映画ならではの迫力のあるテンポとリズムの、ルメット監督会心のケッサクだ。物語は実際にニューヨークの銀行で起きた事件で、映画はそれを忠実に再現したという。その為かテーマが無い。何を言いたい映画なのか、解らないまま終わってしまった。主人公の設定がゲイであることが異色と言えばそうかも知れないが、強盗の目的が妻(男性)の性転換のお金欲しさの動機のリアリティーだけである。小心者の犯人が居直ることで起きた珍事件の成り行きを、固唾をのんで見守る野次馬のような映画鑑賞の醍醐味が、この映画の良さでありユニークな面白さであろう。

金だけが目的で強盗に入ったのに、銀行には現金がなく、仕方なく逃げようとしたら、すでに警察官に取り囲まれている。ここで自首するしかないのに、牢獄には入りたくないと孤立する。ズッコケた犯人たちだ。テレビでは実況中継が始まり、犯人らを批判する電話も掛かって来る。相棒のジョン・カザールが、俺はゲイではない訂正しろ、とメディアに言い寄るところが面白い。益々追い詰められる犯人たち。銀行員を殺すつもりなどさらさら無いのに、当然だがそれだけを配慮し心配する警部との会話が、また可笑しい。二人の弱者に、何十人という警察官と数知れぬ野次馬たち。普通の映画らしくなってきた。でも犯人と人質の銀行員との関係には緊張感が無く、チグハグ感が漂う締まりの無い犯罪映画の現実感もある。
展開としては主人公の妻の登場で中弛みの感があるが、夜になって海外逃亡の段取りが出てから俄然雰囲気が変わる。そして、結末の終わり方。事実は小説より奇なり、と言うが、これは事件は映画より帰結なりか。現代の掴みにくい予測不可能な事件を描いた社会派映画のようなこの作品は、犯罪を野次馬する危険性を孕みながらも、映画の新しい面白さに到達している。

  1976年 10月20日  高田馬場パール座

Gustav
2024年3月17日

だらだらとすみません。今、割と自由に映画館に行けるようになりとても幸せです。知らない映画が山ほど!Gustavさんはずっと記録なさってるんですね。素晴らしいです
今後も何かあったら教えてください

talisman
2024年3月17日

Gustavさん、コメントありがとうございます。高田馬場のパール座は駅前の大きな映画館かな?一度だけ行ったことがあるような。早稲田松竹の料金そんなにお安かったんですね!私はつい数年前からしつこく映画館に行ってます。でも以前はなかなか難しく、よく通っていたミニシアターも閉ざされ。そもそも時間がありませんでした

talisman
2024年3月17日

高田馬場の早稲田松竹で見ました

talisman