黄金のレビュー・感想・評価
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見応えと面白さが一緒になって引き付けるヒューストン映画の、異常心理の男のドラマ
1941年の「マルタの鷹」から1987年の「ザ・デッド/『ダブリン市民』より」まで46年の長いキャリアを重ね、1950年代から60年代に活躍したアメリカ映画を代表するジョン・ヒューストン監督の傑作です。ドイツの作家B・トレヴンの『シエラ・マドレの宝物』(1927年)の冒険小説を原作に、脚本家出身のヒューストン監督が単独で脚色しました。他の殆どの作品の脚本を共作したり、晩年は監督のみに専念したところを見ると、この作品に対する拘りは特に強かったと思われます。自身が完成させた脚本は、他に第一作の「マルタの鷹」のみです。中学生の時に観てその面白さに興奮し、その後大分経って見直して、無駄がない脚本の構成力に感心しましたが、この作品も2時間を超える長尺ながら先ず言えることは、脚本の素晴らしさでした。
それは主要登場人物3人の性格のキャラクター設定が明確にして、相互の関係を特徴付ける対立や協調の人間ドラマが展開する面白さに集約されています。主人公ダブズはメキシコに流れて来て落ちぶれた浮浪者で、メキシコ革命(1910年~1917年)後の混乱した世相でも、他国に活路を見出そうとするアメリカ人。でもダブズには商才も無く人徳もない。彼と共に給与未払いの詐欺に遭うカーティンは、極普通の善人の若者。このふたりに一獲千金の夢を語るハワードは、酸いも甘いも嚙み分ける山師で陽気な老人。この三人が出会いチームを結成するまでに、ヒューストン演じる白いスーツの男とアメリカ人をカモにする実業家マコーミック、そして14歳の子役ロバート・ブレイクの宝くじ売りの少年が絡んで、いよいよ金鉱探しの危険な旅が始まります。ここで注目すべきは、ダブズが人の眼を見て話さないこと。つまり人の心が読めない伏線になっています。欲望にとりつかれて猜疑心から人間不信になる、ダブズの精神的な脆さを裏付けるシークエンスです。
金鉱堀の本編では、列車がゴールデン・ハット率いる山賊に襲撃されるアクションシーンから始まり、強風の中の過酷な登山を経て、ハワードの体力に付いて行けない二人の疲労困憊をユーモラスに描く。後半のクライマックスを盛り上げるすべての要素が絡み合う、考え尽くされた脚本です。フェデラルズと呼ばれる連邦警察とゴールデン・ハットの盗賊の攻防。コーディという男の登場で張り詰めた緊迫感を増幅してからの、見応えある銃撃戦、続くカーティンの人の良さを窺わせる展開の巧さ。インディオとの交流では、溺れた子供を助けるハワードの人柄の良さと温かさを強調して、娯楽作品としての面白さと緩急のバランスを組み立てています。そして、遂に黄金の魅力に負け仲間を裏切る男の無残な結末と、貪欲の末の喪失の経験から地道に働く生き方に進むラストシーンで閉める、映画的な終わり方。演出では、ゴールデン・ハットの不気味さがよく表現されているのと、徐々に孤立化していくダブズの変化する異常心理が独り言の台詞で説明されているところが分かり易く良かった。ごく普通の独り言シーンは過剰説明に終わるものですが、この作品は伏線のシーンを一度入れた上でダブズの追い詰められた心理を見事に表現していました。
しかし、それでもこの愚かなダブズをハンフリー・ボガートが演じたことは、意外でした。スターが演じる役ではないです。ボガートにとっては大きな挑戦であったと思われます。役柄と個性が噛み合い素晴らしいのは、ヒューストンの実父の名優ウオルター・ヒューストン64歳のいぶし銀の演技。対してカーティンを演じたティム・ホルトは個性の輝きがもっと欲しかった。本来ならこのカーティンが主人公になるところをダブズにしたのが、この作品の面白さであり怖さで、ヒューストン監督が好む男の敗北のドラマの特徴が挙げられると思います。見事な脚本に骨太の迫力ある演出は、父にアカデミー賞をもたらした成果を残し、ヒューストン監督の最高傑作の一本としてアメリカ映画の歴史に遺りました。
主人公に相応しい男ではない
総合55点 ( ストーリー:60点|キャスト:55点|演出:50点|ビジュアル:60点|音楽:60点 )
偶然会ったばかりの三人の男たちが金を掘る。しかし一人はメキシコまで来て物乞いをするような小人物で、金を目の前にしていとも簡単に自分を見失う。金の採掘をするものは荒くれ者も多くて犯罪行為が日常的だったとは聞くが、これもよくあるそのような話の1つといったところだろう。
それでこの作品だが、主人公が魅力がない。クズならクズでもいいのだが、それならそれでクズなりの事情とか狡賢さとか盛り上がる展開があればいいのだが、それがなく最後までただ小人物のクズで終わる。主人公を一番存在感のあった山師の老人にするか、展開を変えるかしないと良いものにならないだろう。演出も全体に迫力が無いし、銃を撃ち人が死ぬ場面も映さないようなものでは分り辛い。
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