「昔の人も怒っていたのだろうか」黄金 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
昔の人も怒っていたのだろうか
古い名作映画などは物語の核心が動き出すまでが長い。気持ちが焦っている現代人の感覚からすると、無駄なシーンだ、とか、尺稼ぎだ、とか、見当違いの批判が出そうなゆっくり加減である。
実際はもちろん無駄でも尺稼ぎでもなく、一つ一つ必要な場面を丁寧に積み重ねているだけなのだが。
現代人の感覚に合わせた最近の映画だと、この積み重ねがないからどうにも薄っぺらくなって駄目だ。その点「黄金」はイイ。
さて内容についてだが、まず最初に注目すべきは、自分が考えていることは他人が考えていることと同じだと思い込む罠だろう。自分がつまらない映画は他人もつまらないはずだ、という感覚。本作の中では黄金をめぐる思惑がそれにあたり、疑心暗鬼を生んでドラマを形成していく。
ドブズはこの罠にドップリと浸かりこんでいくが、彼が本来持っていたであろう性質と器の小ささが相まって、哀愁が漂うほどに悲劇とも喜劇とも言えないような、全くバカだねぇと漏らしたくなるラストを迎えことになる。
次の注目ポイントはやはりエンディングだろう。
高評価の映画を観てつまらなかったときに怒りのレビューを書き込む人をたまに見るが、彼らは一体何に怒っているのだろうね?
怒りや憎しみは良い結果を生まないし、怒りや憎しみの反対が何なのかわからないけど、少なくとも笑いは前向きな気持ちを生み出すと「黄金」は教えてくれた。
現代でも通じるテーマを持った古い名作は多いが、逆に現代だからこそ刺さるこの「黄金」はなかなか貴重なのではないだろうか。
肝心の怒れる若者は本作など観ないだろうけどさ。
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