「ハリウッド西部劇が衰退しゆく70年代に爪痕を残した傑作ウエスタン」荒野に生きる TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
ハリウッド西部劇が衰退しゆく70年代に爪痕を残した傑作ウエスタン
実話を題材にした1820年代初頭が舞台の西部劇。
初めて見るのに既視感あると思ったら、レオナルド・ディカプリオ主演の『レヴェナント 蘇りし者』(2015)とモチーフが同じ。アメリカでは有名な話らしく、TVも含め本国では何度も映像化されているそう。
『レヴェナント』が暗く陰鬱な色調でサスペンスや悲劇性を強調したのに対し、逆行や霧を利用した美しい映像や凝った構図のカメラワークが印象的。
回想シーンを効果的に織り交ぜた抒情詩的な編集も秀逸。
一方で大砲を積んだ船をラバに曳かせて雪原を彷徨するシュールな光景や、白人も先住民も関係なく闘いに斃れて雪解けの泥濘に同化していくさまはボスやブリューゲルの幻想絵画のように神話的で暗示的。
自身の権威である船に執着するヘンリー船長のアンクル・サムのような出で立ちにも寓意性を感じる。
殺された息子の復讐へと主人公が突き動かされる『レヴェナント』とは異なり、本作は赦しがテーマ。
「息子に会いに家に帰る」と言い残し去って行くバスのあとに多くのハンターが続いていくラストシーンも、ベトナム戦争末期に本作が作られたことを思えばメッセージ性が汲み取れる。
ザック・バスをハリウッドで永らく活躍した英国出身のリチャード・ハリスが好演。映画監督としての実績が有名なジョン・ヒューストンがヘンリー船長役を抑えた演技で魅せてくれる。
名匠ロバート・アルトマンの盟友にして彼同様、TV出身のリチャード・C・サラフィアン監督の表現力にも注目。
本物と着ぐるみの映像を巧みに併用したグリズリーの襲撃シーンはなかなかの迫力。
CGを使った『レヴェナント』よりも凄いかも。
少なくとも五社英雄監督の『北の蛍』(1984)よりは、はるかに上(あれにはクマりました)。
NHK-BSにて初視聴。