劇場公開日 1951年11月13日

「アウトローの宿命の虚しさが特徴の反ヒロイズム西部劇」拳銃王 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5アウトローの宿命の虚しさが特徴の反ヒロイズム西部劇

2020年9月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ジョン・フォードの名作「駅馬車」と同じくリンゴ・キッドをモデルにした西部劇でも、アクションシーンは少なく、アウトローから更生しようとする主人公ジミー・リンゴの心理状態をメインにした人間ドラマ。実在のリンゴは、1882年に32歳の若さで謎の死を遂げている。34歳のグレゴリー・ペックが口ひげを付けて似せているが、既にスターの貫禄漂い落ち着いていて実年齢より大分上に見える。
物語はカイエンという町にリンゴが朝7時50分に訪れてから、8年前に別れた内縁の妻と息子に再会する10時15分までの短い時間に、主要場面となる酒場、保安官事務所、妻ペギーが教師として勤める教会、そして床屋など限られた場面に色々な人物が絡み登場して、追手から逃げるリンゴの焦りを巧みに演出している。サスペンスの効いた舞台劇の趣向を凝らした異色西部劇。
リンゴが現れて町中が騒動に巻き込まれる中で、大人たちからならず者や殺人犯のレッテルを貼られるが、男の子たちからは早撃ちガンファイターの英雄扱いを受けるところが興味深い。そこに武勇伝に駆られたチンピラのちょっかいが加わる危うさ。まだ法や秩序が整備されない頃の、作り話うわさ話の虚像が独り歩きして真実が曖昧な時代に、かつての銀行強盗仲間の保安官と命運を分けた主人公が無駄にした時間、時既に遅しの戒めが主題として浮かび上がる。

Gustav