「黒澤明が監督だったら、リック・ベイカーは何時間歩かされただろうか」キングコング(1976) TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
黒澤明が監督だったら、リック・ベイカーは何時間歩かされただろうか
モンスターパニック映画の金字塔『キング・コング』(1933年版)のリメイク。
公開当時、巨額を投じて製作されたことや、等身大のコング像(ロボットと言われていたと思うが、くいだおれ太郎程度にしか動かない)や実物サイズの腕が話題になったのを何となく記憶している。
ヒロインのドワン役はモデル出身で今回が銀幕デビュー作品となったジェシカ・ラング。
のちにオスカーで主演と助演、エミー賞でも主演女優賞を獲得する大女優なのに、どうしてもそうは見えない。
彼女が映画初出演だったというだけでなく、製作側のドラマ部分への熱意の薄さや、性格設定の曖昧さが災いしたのだろうと思う。多分、ラングにはセックス・シンボル的な価値しか求められていなかったのだろう。
公開時、オリジナルの1933年版との比較で批判する声もあったが、どうしても後発のピーター・ジャクソンのリメイク(2005年版)とも比べてしまう。
CGのない時代によく健闘したとみるべきかも知れないが、本作には1933年版でも2005年版でも見られる先史時代の巨大生物が一切登場しない(ほかで予算使いすぎたせい?東宝からゴロザウルスやクモンガとか貸してもらえばよかったのに)。
出てくるのは大蛇だけで、しかもあっさり片づけられるのでカタルシスも感じないが、それ以上にコングがドワンを守る場面がここしかないので、ヒロインとの関係性を脆弱にしているようにみえるし、彼女のコングに対する態度に一貫性のなさを感じさせる要因になっているように思う。。
多用されるスケベ親父みたいな表情や、猿には見えない歩き方(デザイン担当のリック・ベイカーがスーツアクターも兼任。この辺りにも予算の使い方の偏りを感じる)からもコングに感情移入しづらく、作品の悲劇性も鈍らせているのでは?!
ラストシーンがドワンとジャックの決別を意味するものなら、クローズアップを駆使するなどしてもっと劇的に出来ただろうし、大資本や文明批判のメッセージも中途半端に思えてならない。
監督はジョン・ギラーミン。パニックムービーの大御所なれど、B級映画の帝王としての側面も否めない人。
ほかにも監督候補に名を連ねた人がいたらしいが、他の監督がメガホンを執っていたらと、つい想像してしまう。
自身にとって1933年版が映画作りの原点だと語るP・ジャクソンも本作の出来に失望したらしいが、彼の2005年版でのコングとヒロインとの関係性はこの作品から受け継いでいる。
その点と、プラス懐かしさで星2.0の評価。
BS12トゥエルビにて視聴。
未見の続編は、予告編だけで見る気なくしそうな感じ。