「改めて本作を観て、本作と911との相似形について初めて思い当たりました」キングコング(1976) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
改めて本作を観て、本作と911との相似形について初めて思い当たりました
ジョン・ギラーミン監督作品
1969年の「レマゲン鉄橋」、1974年の「タワーリング・インフェルノ」、1978年の「ナイル殺人事件」で知られる監督です
特に「タワーリング・インフェルノ」は超大作にして超大ヒットしました
1976年12月公開
その「タワーリング・インフェルノ」の次の作品です
本作の次は1978年「ナイル殺人事件」
これも大ヒットしましたし、内容も良い素晴らしい作品でした
つまり監督が最も脂がのっていた時代であったということです
キングコングと言えば、もちろん1933年の作品が元祖
世界中総ての怪獣映画の始祖です
キングコングが登場する映画は日本の東宝特撮を含めて何本かありますが、本格的なリメイクは本作が初めての作品になります
ゴジラが日本の宝なら、キングコングは米国の宝です
あたら疎かには扱えません
と言うことで、前作「タワーリング・インフェルノ」で実績をだしたギラーミン監督なら資格は十分です
彼は若い時にターザン映画を2作撮っていますから、ジャングル撮影は慣れていますし、その脚本も書いていますから実はこういう映画が好きな人だったのかも知れません
もしかしたら監督の持ち込み企画であったかもしれません
お話は初代の1933年版にほぼ忠実です
でもラストはエンパイヤステートビルディングではありません
3年前に完成したばかりのワールドトレードセンターです
なので時代は1976年の現代です
WTCは1973年4月4日開業
110階建て、屋上は約415メートル
エンパイヤステートビルは102階、屋上は381メートル
完成当時世界一の高さを誇って居ました
でも完成してたった1ヶ月後にシカゴのシアーズタワーに抜かれてしまいます
そちらは110階、442メートルでした
いずれにせよ、WTCは正に戦後アメリカの繁栄が絶頂に達したシンボルでした
たぶん、これを舞台に何か映画撮れないかというのが企画の出発点だったかと思います
WTCありきの映画だったと思います
火事になるのは、撮影中の「タワーリング・インフェルノ」と同じになってしまう
そうだ!超高層ビルならキングコングに登ってもらおう!
そういや、1973年は初代キングコング公開から40周年じゃないか!
超高層ビルの映画なら、「タワーリング・インフェルノ」のギラーミン監督で決まりだ
てなことで、企画がスタートすると
1973年10月から1974年3月にかけて、第四次中東戦争による第一次オイルショックが起きます
石油価格がいきなり4倍に跳ね上がったのです
これにより世界中に猛烈なインフレが発生しました
もちろん米国も日本です
水より安かったガソリンが、そうでなくなったのですから、そりゃあパニックになります
劇中で、エネルギー危機だとか台詞にあるのはこういう訳です
こいつを脚本にぶち込むと、一行が南洋の島になんとしても行くというモチベーションと、一行の装備がかなり充実している理由付けが明確になり好都合です
キングコングをどうやってNY に運んだかも空のタンカーを使うことで簡単に説明できます
漂流中の女優の卵は、お約束の登場人物なのでまあ無理やりの登場です
製作中にあった大きな事件には、こんなことがありました
1974年8月ウォーターゲート事件でニクソン大統領辞任
1975年4月サイゴン陥落
1975年12月フォード大統領訪中、米中国交正常化
1976年7月アメリカ建国200周年
絶頂からの転落の予感です
キングコングは、そのWTC の屋上から転落するのです
また石油を求めてあくどく立ち回る、欲の塊の男はキングコングに踏み潰されてしまうのです
オイルショックはこの後の1979年にもイラン革命によって起きます
石油価格は更に数倍に跳ね上がるのです
安い石油の安定確保が米国の国家戦略の至上命題となり、中東にどんどんとのめり込んでいくきっかけはこれです
そのツケが巡り巡ぐって、本作の23年後、911という悪夢の形でWTC を文字通り直撃するのです
改めて本作を観て、本作と911との相似形について初めて思い当たりました
ギラーミン監督も、製作陣も役者逹もそんなこと夢にも思ってなかったと思います
映画の神様の不思議な御業なのでしょうか?
1976年の製作ですから、まだCGもVFX も存在しない時代です
スター・ウォーズ以前の映画なのです
つまり日本の東宝特撮と同じ土俵で撮影されています
キングコングはもちろん着ぐるみです
それがミニチュアセットを破壊するのです
そう考えて本作の特撮シーンを、1975年の「メカゴジラの逆襲」と比較してみると、本作の特撮の方がずっと良いと分かるはずです
確かに予算規模は段違いですが、それでも丁寧なつくり、合成の見事さは、この時点で、お家芸のミニチュア特撮ですら日本の特撮は立ち遅れてはじめていたと分かると思います
本編の差も歴然としています
カメラは南の島と海を明るく美しい映像で撮っています
脚本も演出もまずまず
NY でのキングコングの登場シーンは出色の出来です
巨大なカバーに覆われてステージに現れるのですが、そのカバーがガソリンスタンドの給油マシンを模してあるのです
笑ってしまいました
ジェシカ・ラングはとても美しくて、セクシーだけども清潔感があり、ちょっと頭が足りないけれど心の優しい女性の風情を上手く演じています
キングコングの花嫁としての衣装も素敵でした
本作の成功の半分以上は彼女の功績と思います
「ディープスロート」は1972年のかなりどぎついポルノ映画のこと
ちょいとこの台詞はやり過ぎだったと思います
でも大ヒットした映画ですし、ニクソン大統領辞任のウォーターゲート事件の情報提供者のことにも掛けてあります
怪獣映画の女優と悪口を言われたようですが、結局映画初出演の本作が出世作となります
ポスターの絵は、WTC のツインタワーの両方にキングコングが足をかけて立ち、攻撃してくるジェット戦闘機を鷲掴みにしています
このジェット戦闘機は、なんちゃって戦闘機でこんな形をした戦闘機は存在しません
そもそもこんなシーンはありせん
攻撃してくるのはヘリコプターです
第一、キングコングが無闇に大き過ぎです
オタク心にこのポスターが許せなかったのは、遥か昔のこと
まあ、本編通りにポスターを描くとちょっとショボい絵面になりますからね
誇大広告ですがしょうがないです