喝采のレビュー・感想・評価
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なんだそりゃ、と叫びたくなる迷作
「なんだそりゃ」と思わず声に出した。脚本がとにかく不細工で、グレース・ケリーにまったく合っていない。いや、そもそも役者というものは脚本がダメだと演技のしようがないのだ。
物語は酒に溺れた元大物俳優の再生劇を描こうとするが、あまりに表面的で、葛藤や感動は乏しい。アルコール依存の妻を支える話が持たなくなると、いきなりウィリアム・ホールデンとのキス・シーンをぶち込んでくる。唐突すぎて「なんだそりゃ!」と叫んでしまった。浮気要素を足してごまかそうとする脚本の浅はかさは、もはや見え見えだ。激情的な会話を盛り上げてキスへと無理やり持っていく場面は、あまりにもバカげていて一時停止してしまったほどである。
俳優ゆえに日常生活でも常に「演技」をしてしまう男、という設定自体は面白い。しかしドラマとしてうまく構築されておらず、企画倒れに終わっている。結局これは映画ではなく、グレース・ケリーの写真集だと割り切って観るほかない。
ケリーの演技力はここでは十分に発揮されていない。にもかかわらずアカデミー賞を取ったのは、純粋に演技力よりも「ハリウッドからモナコの王妃へ」という歴史的文脈が大きいのだろう。彼女本来の輝きは「裏窓」や「泥棒成金」でこそ活きている。
とはいえ、彼女の魅力は眩しい。張ったエラ、いつもアップにした髪、気品を漂わせる立ち姿、少し甘えたような声。冒険心と強気な気質にあふれ、堂々とした肩幅と高身長。すべてが憧れの的であり、最高の女優であり、最高の女性だ。
「喝采」は作品としては退屈極まりないが、グレース・ケリーを愛する者にとっては、それでも見る価値のある一本かもしれない。
グレース・ケリーさま
なによりグレースケリー。
初めて登場したときとラストでの彼女は全く違っています。
そこに至るまでの紆余曲折超えて、美しくなったかのような。
大げさな演出でもないのに妻が選択を迫られる場面ではどちらにいくのかとはらはら。
貞淑で意志堅固だからこそ、あの選択になった(もちろん愛ゆえも)わけでしょうが、あれほどに辛い記憶を共有した同士って離れたほうが良かったりはしないのかな?
二人でそれを抱きながら、支えあっていくのが良いのかな?
未婚者なのでその辺の機微がわからない。
ある母娘の不幸
金銭的事情により修道院から連れ戻された少女は、薄い舞台幕に黒い影となって揺蕩う半裸の母の姿に不安定な自分自身の未来を見る。芸者の苦悩を娘にまで伝播させるべきではないと考えた母は彼女に外の世界を見るように促すが、意地の悪い義父は娘をも売り物にしようと画策する。娘はニューヨークの薄汚い街を彷徨するうちに、心優しい海兵の青年と巡り合う。このときのカメラワークは巧みだ。娘の脚部だけを写したショットは男たちの下品な誘いを無意味で匿名的なノイズとして排除する。しかしふと端正な身なりの海兵が現れ、そこではじめてカメラは彼と彼女の表情を映し出す。恋に落ちる、という心理作用が単純なカメラワークだけで示された素晴らしいシーンだ。娘は海兵との結婚を決意し、母もそれを肯定する。ただ一人批判的だった義父も、最後には母が自らの手で追い払った。しかし一方で母は踊り子としての「賞味期限」を迎えようとしていた。すなわち食い扶持を失いかけていた。母への思慕を捨てきれない娘は海兵との結婚を破談にし、踊り子として舞台に立つことを決意する。しかし時既に遅し、母は二人の生活を邪魔すまいと毒杯を仰いだ後だった。とはいえ最後はハリウッド映画らしく、舞台で嫌々ながら踊りを踊る娘の前に旅立ったはずの海兵が舞い戻ってくるところで映画は幕を閉じる。「これからは3人で一緒に暮らそう」と娘の肩を抱く海兵の言葉が既に事切れた母のショットと虚しく重なり合う。結局のところ男に振り回され続けてきた、そしてこれからも振り回されることになるであろう不幸な母娘の物語だった。
余韻を残す
子どもを自らの不注意で死なせてしまった過去のため、飲んだくれで落ちぶれてしまっていたフランク。プロデューサーは過去の俳優を起用するなんてと大反対。
なんとか短い契約期間で劇出演を承諾することになったが、妻ジョージー(ケリー)が衣装係や舞台裏にまで口を出すほど神経質になった。二人とも再生の道を模索している。地方公演初日もさんざんな批評で落ちこんでしまうが、酒場で酔っ払うと歌手とデュエットしてしまうほど。このシーンがなかなか素敵です。
後半の意外な展開。フランクの絶頂期の台詞のことや、まさかバーニーとジョージーがキスするなんてことも・・・NY公演では代役を使うかどうするかと葛藤があるのに。立ち直るのにはまわりの協力がどうしても必要だったフランクと、彼を立ち直させるために自分を殻に閉じ込めていたジョージー。突然の求婚に迷ってしまう・・・
ラストは余韻を残すいい終わり方。二人の行く先を凝視しないと間違えてしまいそうだ。
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