劇場公開日 2023年8月18日

  • 予告編を見る

「1990年代台湾という「時代」」エドワード・ヤンの恋愛時代 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 1990年代台湾という「時代」

2025年8月15日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

癒される

日本初公開されたのは1995年だから、もう今から30年近く前になるのか。4Kレストア版を観たのはおそらくそれ以来だが、全然そんなに経った気がしなかった。当時はチェン・カイコーの『さらば、わが愛 覇王別姫』やティエン・チュアンチュアンの『青い凧』、ウォン・カーウァイの『恋する惑星』、ツァイ・ミンリャンの『愛情萬歳』も公開され、1980年代末に躍り出たチャン・イーモウやホウ・シャオシェンも走り続けていて、中華圏映画が百花繚乱の時代に入った頃だった。いい時代だったな。

映画は製作当時の高度経済成長下の台北を舞台とした社会人の若者たちの青春群像劇ドラマで、金持ちの令嬢で会社社長のモーリーと彼女の下で働く親友のチチを中心にその同級生・恋人・姉妹・同僚など、どこか満たされず人生や恋愛に惑う大都会の10人の男女の2日半を描いている。同じ台湾ニューシネマでもホウ・シャオシェンは過去(1940~60年代)や田舎を舞台にすることが多かったんで、現在の大都会を舞台とした台湾映画はとても新鮮だった。台北も東京と変わりないぐらい都会なんだなぁとあの頃は感心した。そしてそこで繰り広げられる、人生に迷う若者たちの姿もまた日本と変わらないもので、とても惹き付けられたことを思い出す。

同じような青春群像劇を描く香港のウォン・カーウァイも4Kレストア版が公開されたが、彼と比べるとエドワード・ヤンの映画には若干だが時代性というものが含まれていることに気づいた。カーウァイの映画は普遍性は強いが時代性はあまり無い。ヤンの映画ももちろん普遍性は強いが(じゃなきゃ時代を超えた支持は得られない)、『恋愛時代』はそこにいくばくかの時代性も含まれているのだ。観ていて、あの頃の台湾、あの頃の東アジアが思い出されて、あー、あの頃はそうだったよな~と懐かしさになんだかちょっと目が潤んでしまった。そして原題の『獨立時代(独立時代)』は当時はいまいちピンと来なかったんだが、台湾は1980年代まで戒厳令が敷かれ、1990年代初めにようやく民主化されたという歴史を知ると、非常に深い意味を持つタイトルだったことが今になるとわかる。自由を得て「独立」した喜びと、手にした自由な世界での「独立」への戸惑い、言わば外的独立が終わった後の大都会での内的独立が描かれているわけだ。

まあ、とにかく最初に観た時同様にとても面白かった。やはり僕にとっては最初に観たエドワード・ヤン作品ということもあってこれが彼のベストである。

バラージ