「Take me out to the ball game. 人種差別に立ち向かう姿勢には感動するが、スポーツ映画としての出来はポテンヒット⚾️」42 世界を変えた男 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Take me out to the ball game. 人種差別に立ち向かう姿勢には感動するが、スポーツ映画としての出来はポテンヒット⚾️
メジャーリーグ初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンがいかにして人種差別と闘ったのかを描いた、史実を基にした野球ドラマ。
主人公ジャッキー・ロビンソンを演じるのは名優チャドウィック・ボーズマン。本作出演を機に映画スターとして知られるようになる。
ジャッキーを起用したブルックリン・ドジャースの会長、ブランチ・リッキーを演じるのは『スター・ウォーズ』シリーズや『インディ・ジョーンズ』シリーズの、レジェンド俳優ハリソン・フォード。
全く野球に興味がない自分のような人間でも、伝説の選手ジャッキー・ロビンソンについては聞いたことがある。史上初の黒人メジャーリーガーであり、彼がデビューした4月15日は毎年すべての選手が彼の背番号「42」を背負いマウンドに立つ。この42という背番号は、唯一の全球団共通の永久欠番として特別な輝きを放ち続けている。…まぁ実際は黒人初のメジャーリーガーはジャッキーではなくモーゼス・フリート・ウォーカー(1884年にデビュー)という人らしいんだけど。
ちなみに、アジア人初のメジャーリーガーは南海ホークスからサンフランシスコ・ジャイアンツへと野球留学をした村上雅則(1964年にメジャーデビュー)。一応ハリー・キングマンという中国生まれの選手が1914年にデビューしているが、彼の両親は西洋人宣教師だったようなのでここではノーカンとする。
村上さんも人種差別にあうことが多々あったようだが、それでもアメリカでは結構楽しくやっていたとのこと。こういう話を聞くと、同じカラードとはいえやはり黒人に対する風当たりは黄色人種の比ではなかったということがわかります。
本作は伝説の野球選手を扱った伝記映画だが主眼は人種差別との闘いの方に置かれており、野球自体は割と二の次という感じ。ドジャースが1947年のシーズンをどのように戦ったのかとか、どういう戦績だったのかとか、そういうことはあんまり詳しく描かれていない。
具体的に言うと、リーグ優勝したとのことだがそれとジャッキー加入との因果関係が正直よくわからん。凄く強い選手が1人加入したからといってチームが強くなるというわけでもないだろうし、映画の描写からすると監督の降板や人種間対立など、チームワークに乱れも生まれていたようだし。人種問題を乗り越え一枚岩となったドジャース、という像をはっきりと見せていないので、なんだか味が薄い…。
日本の野球マンガのような、個性的なチームメイトやライバルは不在。せっかくのチームものなんだから、もっと登場人物にキャラクター性を持たせて華やかにすべきではないだろうか。
また、個性がない上みんな白人かつ同じユニフォームを着ているので、はっきり言ってジャッキー以外の選手の見分けがつかない。最後の方でジャッキーと肩を組んでた人とフィリーズのレイシスト監督に食ってかかった人は別人なの?
チームスポーツものはキャラクター間の掛け合いが大事。多少やりすぎでも良いから、タカ・タナカくらいユニークな人物を登場させてジャッキーと友情を育むなり敵対するなりさせていればエンタメ的な見どころを生み出す事が出来ていたかも。必殺の魔球を登場させろとは言わないが、もう少し外連味や抜けの良さが欲しかった。
人種差別を描いた映画としての評価は置いておくとして、スポーツを描いた映画としてはもう一つ。アウトとは言わないが、ポテンヒットとか内野ゴロくらいの感じかな。
お世辞にも面白かったとはいえない映画だったが、それでも醜悪な人種差別に逃げることなく立ち向かうジャッキーの姿勢には大いに感動させられた。「やり返さない勇気」という、キング牧師の非暴力不服従を思い起こさせる無言の抗議が観客の心を揺さぶります。
また本作はアンガーマネジメントを描いた作品であるとも言えると思います。怒りに身を任せることなく自らを律する事。その事の美学が一貫して描かれており、いかに感情に身を任せるという行為が幼稚なものなのか、それをジャッキーとの比較ではっきりと明示している点が良い。時にはブチ切れることも大切だとは思うのですが、それは時と場合と対象をしっかりと考えること。本作を観ていれば、ウィル・スミスもあんなことになっていなかったかも…。
特筆すべきは役者の演技。
『ブラックパンサー』(2018)でお馴染みとなった夭折の名優チャドウィック・ボーズマン。本作は彼の映画初主演作なのだが、そうとは思えない堂々とした圧巻の演技力で、見事ジャッキー・ロビンソンの苦悩と栄光を演じ切っておりました。本作を観て、マーベルはチャドウィック・ボーズマンにもっと自由に演技をさせるべきだったとつくづく思った。ブラックパンサーのあの無味無臭さは一体なんだったんだ?
なんにせよ、今後もっと活躍の場を広げる事が出来たはずの、力のある役者だったことを再確認…。亡くなってしまったのが本当に悔やまれる😢
チャドウィック・ボーズマンもさることながら、最も驚かされたのはブランチ・リッキーを演じたハリソン・フォード!
歳をとってからの彼はなんか覇気がないというか、いつも渋い顔をしながらブツクサ言ってるお爺さんになってしまっていて「おいおい大丈夫かジジイ!?」なんて心配していた。『スター・ウォーズ』(2015)も『ブレードランナー』(2017)も、全然やる気ないのが手に取るようにわかる😅
そんな爺さんになってしまった彼だが、本作の演技は見事!纏う雰囲気から佇まいまで、全くいつものハリソン・フォードっぽさがない。「なんかこの俳優さん見たことあるけど誰だったっけ…?まさかハリソン・フォードじゃないだろうし…」なんて、観ながら本気で思ってましたもん。ハリソンの今回の演技はオスカーレベル。『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)のスタローンくらいには評価されるべき、彼のキャリアを代表するような名演技だったと思う✨…まぁ普段からもっと真剣にやれってことでもあるんだけどね。
ボーズマンとハリソン。2人の名優による掛け合いが生み出すドラマが本作最大の魅力。彼らの演技合戦にはきっと胸を熱くさせられるはず。
父親の差別を子供が真似る。そういう悪しき伝承が本作でも描かれていた。近年の日本を取り巻く人種差別的憎悪にはほとほと嫌気が差しているのだが、こういう思想を持っているのは大体がいい歳したオヤジ。こういう奴らが若い世代にその憎悪を伝播させている。
ショウヘイオオタニの活躍に、そしてそれ以上にイッペイミズハラのクレイジーさにより日本国内での注目度が増しているドジャース。人種差別に関心のないただの大谷ファンにこそ本作を鑑賞し、色々と考えて欲しい。