「クラピシュ好きはマスト! フランス映画の毒が好きな方もぜひ!」フランス、幸せのメソッド ファントムくんさんの映画レビュー(感想・評価)
クラピシュ好きはマスト! フランス映画の毒が好きな方もぜひ!
まず最初に書いておきたいこと、それは
「立場のちがう男女が、お互いを意識するなかで
それぞれの価値観を認めあうハートフルストーリー」
といったイメージがあるなら、それはまるでウソだということ。
(タイトルと、宣伝文句のせい? 自分もそういうふうに思っていましたが
いい意味で裏切られてとても快感です)
日本語タイトルがほんとに意味不明なものにされていますが
原題は「Ma Part du Gateau」、
「(ケーキのなかの)わたしの取りぶん」といった意味。
フランス映画らしい、そしてクラピシュ作品としては
「百貨店大百科」を想起させるような
「おいおいそれが結末かい!」というラスト数分です。
確かに、いやな後味であることに間違いはありませんが
「待ってました!」という感じです。これでこそだ。
だから「ああーいい話だったねえ」というような映画を求めているのであれば
見ないほうがよいと思われます。裏切られすぎて心を病むかもです。
社会の理不尽にハッピーエンドなんてねえんだよ、という皮肉と風刺を
おしゃれな雰囲気と時折挟み込まれる乾いた笑いで見せていく、のが
クラピシュ監督の流儀であり、この作品を鮮烈なものにしています。
主人公の女性の名前は、「フランス」。
勤務先の工場の倒産で失業を余儀なくされ、
イギリスの金融界で働くバリバリのエリート男の部屋で
家政婦のアルバイトをします。家族を養うために。
舞台設定からして皮肉たっぷり、フランスという国と
3児のシングルマザーで失業中の女性を重ねています。
そしてその「フランス」はグローバルビジネスにこき使われるポジション、
というわけです。
長編デビュー作である「百貨店大百科」のどんでん返しだけでなく、
「猫が行方不明」で、必死になって猫を探した功労者の
アラブくんが抱いた恋心を木っ端にしていたり。
「PARIS」では大学教授と生徒の恋がめちゃめちゃな結末を迎えたり。
とかく、「理想のほのぼのストーリー」のふりをしていて
途中で突き落とすような展開は、セドリック・クラピシュ監督の妙味でしょう。
そしてその突き落としは社会風刺によって裏打ちされている。
今回のこの映画は、見事なまでのクラピシュ節です。
そうとうに観る人を選ぶと思いますが
(ゆえに日本で劇場公開されなかったのでしょうが)
フランス映画ならではの風刺やシニシズムが好きな自分としては
久しぶりに観た痛快優良作品でありました。
ラストの、脇役たちによって行われるシュプレヒコールのような掛け声が
いろいろな方向から深く突き刺さりました。
文句なしの5。