「非現実的な部分もあるが、戦争時に精一杯生きていた当時の日本軍兵士を考えさせる」永遠の0 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
非現実的な部分もあるが、戦争時に精一杯生きていた当時の日本軍兵士を考えさせる
総合:80点 ( ストーリー:80点|キャスト:75点|演出:75点|ビジュアル:70点|音楽:65点 )
いきなりかなりネタバレです。
①自分しか守るものがいないという家族のためにも絶対に生き残るという主人公宮部の生き方を、一部の戦友達が理解し、宮部が帰ってこなくても彼のやるべきことを彼の代わりに行う。
②宮部は高度な操縦技術を身に着け、相手に気が付かれないように機体を横滑りさせながら直進しているように見せかけることで相手の攻撃をそらす。それが多くの場合に失敗する敵空母に接近する神風特別攻撃の時も。
いくつかの伏線が貼ってあるが、特にこの2つの伏線回収が見事だった。戦争がどうのこうのいう前に映画としてこの部分の脚本が良く出来ていた。
そして上官とも同僚とも激しく対立してまであれほどに家族のために生き残るという信念がありながら、その信念を揺るがしてしまう事が起きたという事実を、はっきりとは作品は語らない。宮部はそのことを手紙で家族にすら伝えていない。だが視聴者はその信念をも変えさせた重大なことを作品中に観たはずである。その重さに揺さぶられる。
それは現代に生きる孫である健太郎の意識の変化にも表れる。当時の人々がどのように生きていたのかという重大さを表現できている。
主人公宮部の家族のために当時の日本と軍隊の常識と圧力に逆らい続けるというのは凄い勇気だ。あまりに困難でむしろさっさと死んだ方が楽にも思える。暴力的な当時の日本軍にいながら人に丁寧に接する態度といい、任務を放棄して乱戦のさなか自分だけ安全圏に逃げれば軍法会議ものだろうし、ちょっと現実離れしている印象も受けた。だが作品としていろんな人がいても良いとも思える。
自分も戦争について特攻について子供のころから色々と興味を持ち、神風特別攻撃のことも含めて調べてきた。この部分はあの事実を基にしているのかなと想定することもあり、原作者の百田尚樹も同様に良く調べていると思う。
映画の結末は空母に急降下していくところで終わっているが、原作では体当たりするものの爆弾が不発で、最初は宮部は米軍兵士の怒りをかうものの最後には勇敢な兵士として丁重に弔われるらしい。例えばこれは史実で零戦の特攻機が沖縄で戦艦ミズーリに突入しながら爆弾が不発で、突入し壊れた零戦と共に死んだ操縦士は最初は米軍兵士の怒りをかったが、その後勇敢な操縦士だったと丁寧に弔われたという事実を基にしているのだろう。
宮部が機体を横滑りさせて敵の攻撃をかわしたのは、硫黄島の戦いで零戦撃墜王の坂井三郎が1対15で空中戦をしたときに機体を横滑りさせて敵を惑わして15機からの攻撃を全てかわしたという事実を基にしているのかと思う。
映像については良く出来ている部分もあるが、残念ながらすぐにCGとわかる特撮の質が高いとは言い難いし、また画像の使いまわしをしているのも失望した。ここは残念ながら邦画の限界だった。
映画の内容については賛否両論あるようだ。だが戦争のことについて調べたり考えたりすること自体が悪という考えすらもある日本で、この映画をきっかけに戦争と平和について、あるいは日本軍と兵士たちのことについて多くの人が考えるきっかけになれば良いと思うし、作品が支持されたという点ではそうなっていると期待している。