永遠の0 : インタビュー
三浦春馬、自らのルーツ探しで芽生えた大いなる自信
目の前に現れた三浦春馬は、インタビューの直前まで行定勲監督の最新作「真夜中の五分前」の撮影で中国・上海にいた。それでも疲れた表情を見せることなく、昨年6月14日にクランクインした山崎貴監督作「永遠の0」での濃密な日々について淀みなく話し始めた。三浦にとって、それだけ意義深い撮影期間だったことがうかがえる。岡田准一、井上真央ら豪華キャストが出演する今作だが、三浦が出演したのは現代パート。田中泯、山本學、平幹二朗、橋爪功、故夏八木勲さんら日本映画界をけん引してきたベテラン陣と相対した、かけがえのないひと夏について、思い入れたっぷりに語った。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
三浦が今作で演じた佐伯健太郎は、弁護士を目指すも司法試験に4年連続で落ち続け、進路に迷う26歳。戦時中パートで井上真央が扮した祖母・松乃の葬儀で、初めて祖父・賢一郎(夏八木さん)と血のつながりがないことを知らされるという役どころだ。フリーライターである姉・慶子(吹石一恵)の取材を手伝い、実祖父・宮部久蔵の生涯を調べるうち、歴史に埋もれた戦争の真実に気づき始め自らの意思で宮部が残した謎を追い求めるようになる。
ベストセラー作家・百田尚樹氏の作家デビュー作を映画化した今作の面白さは、凄腕をもちながら異常なまでに死を恐れ「生きて妻のもとへ帰る」と公言し続けた零戦パイロットが、なぜ特攻に志願したのかの真相を、ふたりの孫がかつての戦友たちに訪ねて回るという設定にある。その証言から浮上した、「海軍一の臆病者」と呼ばれた祖父の姿。三浦は、役作りの一環として戦争を題材にしたドキュメンタリーを見て得たことを、健太郎という人物像に肉付けしていった。
「僕が聞き手となって、名だたる俳優さんが演じられる祖父のかつての戦友のもとへうかがい話を聞くという局面のなかで、台本に書かれていたセリフの語尾を、少し崩してみました。何を思ってそうしたかというと、ドキュメンタリーを何本か見ると、自らルーツを探るべくいろんな方に話を聞きに行くというのが多かったのです。そのVTRを見ていると、聞き手さんが『ああ、そうなんですかー』といった感じの返答をしていたんです。相手の気持ちや、当時のことに思いをはせながら出てくる言葉って、少し伸びているんですね。ドキュメンタリーを見ているような感覚とまではいかないですが、何となくそこに近づけたかったという思いがありました」
その試みは、山崎監督から「そこは感心したよ」という言葉を引き出した。ただし、「監督にほめられたのは唯一そこだけでした(笑)」と述懐。撮影現場を「修行場みたいな毎日だった」と語り、「どの日も監督に『もっと気持ちを高めてくれ』『こういう表情をしてくれ』という指示が飛び交っていて、僕もかなり言われましたね。それだけ監督のなかにビジョンが明確にあったのでしょうけれど、時間を惜しむことなく役者から望んだ表情が出てくるまで待ってくれる監督でした」と感謝する。
テイクもかなり重ねたようで、なかでも撮影初日、豪邸に住む謎多き人物・景浦(田中)を訪ねるシーンは忘れることができないという。「1カットだけに15回以上のテイクを重ねさせてもらいました。僕自身も全然ダメだと思ったし、監督からも『全然足りない』と言われました」。それでも、三浦は果敢にベテラン俳優たちに向かっていった。これまでに経験したことがないほど、大きな財産となったことは間違いない。余命わずかの身でありながら、健太郎と慶子に真実を語ることこそが自らの使命と悟った井崎(橋爪)とのシーンも、見る者の脳裏に鮮明に残る貴重なものとなった。
「橋爪さんとのシーンも、申し訳ないことに、かなりテイクを重ねてしまったんです。『すみません、何度も』と言ったら、『そんなこと気にしなくていいんだよ』とおっしゃってくださいました。さらに、目線の位置であるとか、カメラが狙っている位置関係を丁寧に教えてくれたり、助言をいただきました。いま思うのは、こうして名だたる俳優さんたちとお芝居をしながら、皆さんが今まで積み上げてきた芝居の型だったり、キャリアからにじみ出る生きざまみたいな“背景”を目の当たりにすることができました。本当に、皆さんの“背景”が見えた気がしたんです。僕にはそういう演技、まだまだ出来ません。すごく近い距離で接していただいて、本当にいい時間でした」
撮影を進めていくにしたがって、三浦にはある思いが胸中を駆けめぐった。自らの亡き祖父から直接、激動の時代について聞きたかったということ。当然ながらかなわないではあるが、自分のルーツも純粋に気になったそうで、母親から聞ける限りのことは教えてもらったと明かす。
「僕のおじいさんは当時、学生さんで、学徒兵になろうとしたのに目が悪くて試験に落ちてしまったそうなんです。仲間たちがどんどん試験に受かって戦地へ向かっていくなかで、目が悪いというだけで見送らなければならない気持ちってどういうものだったんだろう。いろんな葛藤があったと思います。それでも努力を惜しまず勉強して学校の先生になり、最終的には校長先生にまでなった。おじいさんの頑張りは素晴らしいし、本当に努力家だったんでしょうね。自分にもその血が流れていると思うと、どことなく元気付けられるし、これからの役者人生だけでなく、一個人として生きていくなかで辛いことがあったとしても、負けずに頑張っていこうという気持ちにさせてくれました。この作品にかかわって、僕自身とてもいい思いをさせてもらったと自信をもって言えます」
視線をそらすことなく、言葉を選びながら亡き祖父について説明する三浦の姿からは、その内容とは裏腹に気負いは感じられない。それは、あらゆることに対して不退転の覚悟をもって挑む姿勢ゆえからか。撮影中も、出演シーンのない戦時中パートを見学したいと製作サイドに直訴し、久蔵(岡田)と大石(染谷将太)が共演する山梨の現場へ足を運んだ。
岡田から「会いたかったよ、孫!」と歓迎され握手を交わしたというが、三浦は「岡田さんが築き上げてきた、現場で披露してきた顔がある。その顔を見たいと思ったんです」と語る。この訪問の後、あるシーンの撮影を控えており、「僕にとって大事なパワーになりそうな気がしたんです。このシーンの芝居を、映画を見てくれる人たちにとって印象に残るものにしたかったので、自分がどう役を作っていけるのか、どういう心境で現場に臨めるかを大切にしたかった。衣装を着るのは当たり前ですが、心にも何層もの服を着させてあげて、温めてあげて、役に臨みたいという意識が強かったんです」と振り返った。
三浦が元来もつ生真面目さは、今後の役者人生に数々の“福”をもたらすはずだ。岡田が奮闘する現場を訪れたことも、「行かずに上手く演じられなかったら後悔するじゃないですか。後悔って、本当に返ってきませんから。自分がやりたいと思ったことが、役にどう影響するか分かりませんけれど、やらないまま後悔することだけは絶対にやってはいけないことだと思っているんです」と特別なことと思わず、意に介していない姿勢からもうかがえる。先祖を思う気持ちは尊いこと。勤勉だった亡き祖父の存在が、2014年も三浦を強力に後押しするに違いない。