「原作の冗長さを克服していなく、ツマのご乱心も説明不足。キャストは素晴らしいが脚本に難アリ。」きいろいゾウ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
原作の冗長さを克服していなく、ツマのご乱心も説明不足。キャストは素晴らしいが脚本に難アリ。
原作は、『きいろいゾウ』の童話と夫婦愛の物語が同時進行するユニークな構成。劇場化でもそのまま引き継いで、童話の部分はアニメとして再現されています。
また新婚の二人が新居として選んだ場所が、都会から遠く離れた山村で、日々の田舎暮らしを細々と描かれるのです。
そういう構成では、『しあわせのパン』に凄く近い作品だと思います。しかし、『しあわせのパン』では絵本『月とマーニ』の進行と本筋の実話部分の連携が凄くいい感動を紡ぎ出していましたが、本作の場合も全く繋がっていないことが気になります。
いくらスローライフやロハスが好きな人でも、前半の淡々とした描写は退屈ではないでしょうか。廣木監督の欠点として、無駄に意味の無いシーンをロングで引っ張るところがあり、原作の冗長さに引っ張られてしまったキライがあります。
後半になって夫婦がそれぞれに隠してきたトラウマが表面化して、波乱含みとなり、俄然飽きさせないスリリングな展開を迎えます。
ただ突然ツマが壊れだして、ムコに当たり出すというのは、説明不足ではないでしょうか。原因不明でヒステリックになったり、爪をとがらせて引っ掻いてくる=^_^=なんて、ムコでなくても、観客もなぜ?と困惑してしまいます。それも愛らしい新妻ぶりをたっぷり演じている宮﨑あおいがそれを表現すると、ひとしおです。
でもツマのご乱心の原因は明かされず、ご乱心と同時に家出してしまうムコが家に戻ると勝手に治ってしまうんです。
説明不足と言えば、ツマの特殊能力というか超能力というか、動物たちと話ができる不思議な力にも、何も説明がありません。最初からそういうものとして登場して、ムコの家出でショックを受けたのか、勝手に消失してしまいました。『しあわせのパン』でも動物たちの独白は面白かったですが、本作のそれもなかなか笑わせてくれます。
例えば飼い犬の、立場を全く弁えない肉寄こせと要求するところや、代わりににちくわをあげても、全く感謝しないわがままぶりには笑えましたね。それと、妻が悩んだときの相談役である蘇鉄は、まるで哲学者のように堂々とした答えを与えて、物語に異才な存在感を放っていました。
さて家出したように見えたムコの行き先は、昔思いを寄せたことがある人妻の元へでした。こころを病んだ妻を何とか立ち直らせたく、断腸の思いで夫がムコを呼び出したのが真相でした。三人の微妙な関係を描くこのシークエンスは、出演者の力演も伴い、見どころ充分です。
しかし本筋の流れからは、ツマとムコの関係が揺るぎ出すところまでは至らず、自宅に放置されたツマの苦悩が重く感じられなくなってしまいました。
冗長な原作をそのまま映画化したら、アラがそのまま映像化されてしまいます。本作の場合もう少し加筆して、『しあわせのパン』のような感動的なラストに持っていくべきではないでしょうか。
それでも原作に惚れ込んだという宮﨑あおいの演技は素晴らしい!そして、壊れやすいツマを大きな愛で包み込んだ向井理の抱擁力ある演技が見事に夫婦愛のハーモーニーを生み出しているのです。
やっぱり監督がもう少しエモーショナルな人だったら『しあわせのパン』のような感動作となっていたことでしょう。