「魂の承継」ロボコップ 蒔島 継語さんの映画レビュー(感想・評価)
魂の承継
笑った。本当に心から笑った。大笑いだった。涙が出て咳こんだ。
なぜ、この映画の評価が低いのか、理解できない。
冒頭の中東でのシークエンスがメタルギアソリッド4へのオマージュであったり、また「Fry me to the moon」や「Follow me」の援用といったエヴァンゲリオンや押井守監督への敬礼をちりばめつつ(どちらも人造人間やロボットに関する作品!)、ロボコップが始動する場面はダース・ベイダーがSWEP3で誕生するくだりへの露骨なオマージュであったり、圧倒的多数との銃撃戦はあのガン=カタを世に送り出した「リベリオン」への熱烈なラブコールであったりと、茶目っ気たっぷりサービスメガ盛りのフィルム。
さらに素晴らしいのは、ロボコップが作られたのが、実は高い高ーい塀に囲まれた中国の田舎の工場でした、というMacやiphoneのパロディ。こういった不謹慎なネタの数々、本家本元バーホーベン大監督への深い深い黙礼がもういちいち最高。
そう、この映画はアクション映画ではない。
コメディです。それも相っ当にブラックきわまりない。
映画が始まる前からそれはすでに始まっている。そう、配給会社のMGMのロゴ「レオ・ザ・ライオン」の吠え声からそれはもう始まっている。と同時にあの吠え声こそが、これから始まるのはコメディですよと雄弁に語っている。あそこで笑っちゃった方、正解です。
続くシーンは報道バラエティ。そして主人公マーフィーのストーリーへと続いてゆくが、ここでこの映画の構造が明らかになる。そう、マーフィーの物語のレイヤーが基底にあり、その物語をメタ化する報道バラエティ番組のレイヤーがその上位に存在する。その報道バラエティも痛烈なメディア批判の裏返しとして存在し、ラストの比類なきブラックジョークとして結実する。ここ、わかるひとには間違いなく大爆笑モノ。不謹慎すぎて笑うしかない、という。
しかし、この映画にはさらに上位のレイヤーが存在する。それは配給会社のMGMが、マスメディアでもあるということだ。
どういう意味かおわかりだろうか。そう「マスメディアってこーいう世論誘導や情報操作の偏向報道やるよねー」と痛烈に皮肉りながら、それを配給しているのが当のマスメディアなのだ。よくぞこんな企画が最後まで通ったな。
ここまで読んで頂いて、おわかり頂けただろうか。この映画は単なるロボコップの焼き直しなどではない。どちらかというと、あの傑作SFコメディ「スターシップ・トゥルーパーズ」の痛烈なブラックジョーク、バーホーベン御大の批判精神に対する真摯な敬礼なのである。言ってみればバーホーベンの魂を受け継ぎ、語りなおしてみせた作品なのだ。
さらに付言すべき点は、この映画がマンマシン・インターフェイスに関する鋭い考察を内包していることにある。人間と機械の接点、その制御を、人間の意識と機械の制御ソフトウェアのどこで折り合いをつけるのか、機械と繋がったとき、人の意識はどう「在る」のか。この映画はその扉を大胆に開く。
充分以上のアクションであり、上質かつ不謹慎きわまりないブラックコメディであり、SFの神髄にも迫る。
改めて言おう。素晴らしいフィルムであると。