「宇宙で故郷の夢を見る」エリジウム 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙で故郷の夢を見る
『第9地区』そして本作『エリジウム』の2作品を観て
ニール・プロムガンプ監督がズバ抜けていると感じる点は、
社会的テーマと怒涛のアクションを同居させるその手腕。
『第9地区』の根底にあったのは人種差別への痛烈な批判だったと思うが、今回は貧富の格差、そして人口爆発について語られている。
白い屋敷に緑の芝生に真っ青なプールにハイソな人々と、『エリジウム』で描かれる富裕層のイメージは正直言って陳腐。
だが、ここで語られている理想郷のキモは恐らくそこじゃない。
この映画で地球の人々が最も求めているのは、金銭や地位ではなく、医療を初めとした生活保護だ。
十分な医療を受けられず死んでいく“持たざる者”とそれらを独占する富裕層すなわち“持つ者”との衝突。
現実に、日本なら薬を飲んで3日で治るような病気で子ども達が死んでいく国がある。
いや、日本にだってそんな環境に置かれた子ども達はいるのだろう。
「生きたいと願う人々に差し伸べる手が、世の中にもう少しあったっていいんじゃないか?
僕らはもう少し優しくする事ができるんじゃないのか?」
監督から、そんな事を言われているように思えてならなかった。
そんな重いテーマを、質の高いアクションを織り混ぜて一気呵成に見せるこの豪腕ぶり!
この監督の撮るアクションは、泥臭くて混沌とした画作りに見えてそのくせ、しっかりとしたケレン味も感じさせる。
スローの巧みな使い所、緩急の間、感情を挟み込ませる巧さなど色々あるがともかく、
リアルとケレンという相反する要素を両立させるというのはかなりの離れ業だと個人的には思う。
なんつうか、近未来のメカ造形も含めてアクション全盛期の頃のジェームズ・キャメロンに近いものを感じる。
その近未来SFなギミックの数々もたまらない。
ワイドショーなどでもちょくちょく見掛ける
作業アシスト用のスーツを強力にしたような“エクソスーツ”、
人の脳をメモリにして電子データを記憶させる技術、
カラシニコフライフルをベースにした超火力の自動小銃、
成層圏まで届くロケットランチャー!(これが一番ビビった)
この『100年後ならホントにありそう』という、リアルで泥臭い
肌触りが良い。
ただ、難点はある。
スラムの描写や戦闘・ギミックなどの『泥臭さ』を感じる部分は見事なのだが、
理想郷エリジウムに関する部分となるとガクンとリアリティが落ちる。
富裕層のありきたり過ぎるイメージや、エリジウムに舞台を移してからの展開があまりにせわしない点などは気になるし、
主人公がエリジウムに潜入する方法自体もやや強引だった。
終盤で起こるクーデターに関する部分も……たった3人の傭兵に
クーデター起こされてあそこまで危なくなるなんて、ちょいと守備が甘すぎやしませんこと。
思うに、エリジウムが魅力的に見えないのは、
監督自身がそもそもあの環境に憧れを抱いていないからかもしれない。
権力に対する怒りと虐げられた人々への優しい眼差し。
それが彼の根底にあるのなら、富裕層を魅力的に描くのは実は彼にとって難しい作業なのかもね。
あの哀しく優しい結末。
地球から見た天国に憧れ続けた男が、天国から見た地球に憧れるというラスト。
主人公が最期に追い求めた理想郷は、恋人や仲間と夢を思い描きながら生きた故郷の地だった。
故郷で職が無くてはるばる日本までやってくる外国の人って多い。彼らもきっと、故郷の夢を見るんだろう。
全然レベルが違うが、地元・九州に職が無くて静岡まで出稼ぎに来てる自分にも少し思う所はある。
叶うのなら、故郷が豊かになって、そこで皆で生きて死ねるのが最上だと思う次第。
〈2013.9.21鑑賞〉
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追記1:
人口爆発というテーマについて何ら答えがないという
意見の方も見掛けたが、そもそもこんな重い問いに
万人が納得するような解決策なんて存在しないだろう。
『生きよう/生かそう』とする意志は誰にも否定できないし、
自らの生活を守るために他者を排除する側の論理も見方に
よっては正義だ。どっちが悪いかなんて誰に言える。
良いか悪いか、解決できるかできないかは関係なく、
人が増え続けていくのは不可避な現実なのだと思う。
追記2:
役者について全く触れていなかったが、
主演マット・デイモンが良い意味でヒーローっぽくない。一市民がもがいているように見える点が良い。
にしても彼っていつの間にこんなアクション引っ張りダコな俳優になったんだろ。
個人的には未だに青春映画のイメージが強いのだけれど。
そうそう、ハイエナのような笑みを浮かべる狂人シャルト・コプリーも最高だった。
近寄っただけで血の臭いが漂ってくるような悪辣ぶり!
梅花が舞う中で日本刀を振りかざす彼の勇姿を見よッ!(笑)