「社会の普遍の構図がただあるのみ」エリジウム REXさんの映画レビュー(感想・評価)
社会の普遍の構図がただあるのみ
「第9地区」もそうだが、今回の映画も人物描写に善悪の明確な区別はなく、混沌として複雑な社会構図が、ただそこにある。
どれもこれもがピカピカしたメタリックな素材でできた未来ではなく、アナログさと最先端技術が混在した街の様子がリアルだ。 かさついた空気の悪い都市は色を失ったセピア色。着るものや住環境は全く進化してないのに、一部分だけ妙に突出した物があるのは、扇風機とパソコンが同居している私たちの生活の延長線上のようで、簡単にシンクロできる。 むしろなんら進歩のない格差社会が、来るべき未来の様子なのかもと想像してしまい、気持ちが萎えたほどだ。
簡単に治療できる技術があるにもかかわらず、低所得者にはその技術は施さない。それを行うと貧富のバラ ンスが崩れてしまうから誰も行わないという、人間には絶対の不平等が横たわる社会の図式に、考えさせるものがある。
スラムのギャングたちに、外科の腕が抜群の者がいたり、エリジウムのメインサーバのスクリプトを書き換えられる者がいたり、また、簡単に大気圏を突破できる宇宙船や、簡単に離着陸できるエリジウムなど、構造的に突っ込みどころが多いのが難点。
また、感情移入の要素を廃したあまり、主人公マックスに肩入れできなかったのも事実。そのため政府の足となる拝金主義の傭兵(本当にゲス野郎だった)との一騎討ちもあまり盛り上がらず、惜しい。 結末がヒロイックなだけに、もう少し感情に訴えてもよかった。
エリジウム高官のジョディ・フォスターも特に見せ場なく、死をあっけなく受け入れる様子が、それまで頑なに低所得者を排し超寿命に固執してきた姿に似つかわしくなく潔いので、多少困惑。
とはいえ、ただ初恋の人との未来を儚く夢見たマックスの、刹那的な人生を見届けた後に去来した虚しさは嫌いじゃない。
見逃したチャッピーも、きっと面白かったのではと、 期待が寄せられる。