マリーゴールド・ホテルで会いましょうのレビュー・感想・評価
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名優に救われたステレオタイプな映画
この映画を見に行くと、劇場にいた観客のほとんどは定年退職済みのご老人ばかり。例外として何人か30代〜40代の女性の方もチラホラいたが、これでこの映画の内容が分かるというものだ。
あらすじにある通り、何人かの年寄りが理由は違えど、インドの「高齢者向け長期滞在型リゾートホテル」に住むことになる、というのが大まかなプロットだ。そこに各々の様々なエピソードが添えられて、一つの映画を成している。
まず映画の中の「インド」だが、雰囲気は悪くない。エキゾチックで魅力的な異国の地を見事に演出している。ただ、「イギリス人から見た」という文がつくが。
ほとんどの演出は許容範囲だが、この映画にはこの手の映画にありがちな“植民的視点”が数多く盛り込まれている。挙げるとキリが無いが、例えばホテルの若き支配人ソニー・カプー(「スラムドッグ$ミリオネア」のデヴ・パテルが演じている)は典型的な「外国人の考えるインド人」だ。細かいことは気にせず、底抜けに陽気でわざとらしいインド訛りで話す。そして「現代的な彼女」はコールセンターで働いている。これをステレオタイプと言わずになんと言おう。(そもそもデヴ・パテルはイギリス生まれのイギリス育ちだ)
インドを訪れる老人たちの中には、なかなかインドに馴染めない者もいるのだが、その「差別主義者」ぶりもわざとらしくて、次第に鼻につく。手術を受けにインドへ来たミュリエル(マギー・スミスが好演)は大のインド嫌い。有色人種の医者に「洗っても色は落ちない」と罵ったり、「イギリス人(もちろん全員がイギリス人)の医者を連れてこい」などとわめいたり。笑える雰囲気で描いているが、これは明らかにイギリス的な“やり過ぎ”ブラックジョークだ。インドを訪れた後に、ホテルで働く(カースト制における)不可触民のメイドに掃除の仕方をアドバイスするシーンも、いかにも「教化」といった印象を受ける(イヴリンのコールセンターでの「アドバイス」も同様)。そもそも彼女との交流を通して、大のインド嫌いだった人物が急に現地に慣れ親しむのも変な話だ。御都合主義としか思えない。
その点、ダグラスの妻ジーンは理解できる。彼女は最後までインドに馴染むことができないのだが、彼女の存在は、優位主義的な既成概念を捨て去ることのできない人間のプライドをえぐり取る。
だがそういった陳腐な演出に目をつむれば、この映画は非常に優れた大人(というか老人)のためのコメディ映画だ。笑える場面もあり(隣の初老のおばさんは「死亡ネタ」でバカウケしていた)、じんわりと感動できる場面もある。個々のエピソードをバランスよく盛り込み、過剰でも足りないわけでもなく、本当にぴったりだ。
演じる役者陣も名優ばかりだから、誰が登場しても安心してみることができる。その中でも特に良いのが、トム・ウィルキンソンとビル・ナイだ。
トム・ウィルキンソンはゲイの判事を繊細に、かつエモーショナルに演じた。彼がインドに来た理由は生き別れた大切な人を捜すためなのだが、その姿がなんとも言えぬ感情を生む。彼がどれほど相手のことを愛していたか、何も話さなくても伝わってくる。もちろん、彼が自分の心情を吐露する場面も素晴らしい出来だ。なぜ彼のエピソードが感動的なのかと言うと、人種間の垣根を越えた“愛情”という対等な関係だからだ。この映画で唯一の例外である。
ビル・ナイはジーンの気弱な亭主ダグラスを演じる。彼とイヴリンの会話のシーンは(良い意味で)イギリス人らしい小気味良いウィットに包まれている。限りなく自然体で、イヴリンが好きだが妻のことを捨てることもできない草食系ジジイに成り切っている。
当然この映画のメインは「インドでの異国体験」ではなく「老人たちの新たな始まり」だ。だからこういったラブロマンス的な要素が本来の主題である。一歩間違えば、ただ鼻につくだけの「老人の恋」もジョン・マッデンの手にかかれば一級品のものになる。なにしろ「恋におちたシェークスピア」の監督だ。こういったシーンはお手の物である。
多くの人はこの映画を気に入るはずだ。嫌いなシーンも多いが、憎めない。一言で言うと、そんな映画だ。
(2013年2月17日鑑賞)
ストーリーよりも人物像を愉しむ
空港ロビーのベンチに、ジュディ・デンチやビル・ナイをはじめとしたベテラン俳優7人が横並びになるところは壮観というより、むしろ笑えるカットというところがこの映画の楽しさだ。
それぞれが問題を抱えていて、これからの老後について真剣に考えてはいるのだが、明日をも知れぬ老人とはかけ離れていて切羽詰まった様子は7人の顔ぶれからは窺えない。皆、ポジティブで前向きなのだ。ここまでの人生ご破算にしてでも、新たな一歩を踏み出すことに躊躇がない。
ここは一般的に言われる老後の生活を問題にしているわけではなく、一度きりしかない人生、このままでいいのかという問いかけと、まだまだやり直せるというエールが込められている。
ましてや若者が希望を持たないでどうする、と引き合いに出されたのがマリーゴールド・ホテルの建て直しに夢を懸ける青年ソニーとその恋人スナイナだ。
インドでの生活に溶けこむことに最後まで拒否反応を示したダグラスの妻ジーンが一見マイナス指向に見えるが、彼女も最後は前に進むことを選んだ結果の行動で決して不幸せなことではない。
人種差別家のミュリエルの変わり様が既定路線とはいえ、そのしたたかさが中々に笑えて憎めない。さすがマギー・スミス。
ストーリーはありきたりだが、それぞれ人生の転機を望む人物像が愉しめる作品だ。そしてインド特有の色彩を楽しむ作品でもある。美しく力強い色彩が再現されなかったら魅力半減になる。日比谷シャンテでのデジタル上映による色彩は実に鮮やかで心躍る。
マギースミスが輝いてました。
お年を召したイギリス男女7人の物語。
けどこの7人はたまたまこの旅行で巡り会った仲間たち。
夫に先立たれた人や、心臓病を患いながらどうしてもインドにこなくてはならない理由があった人、倦怠期を迎えている夫婦とか…それぞれの事情を抱えながらインドへ旅に来ます。
観て感じたこと…歳をとってもやりたいこと、やらねばならないことはいつもあるんだな〜、そしてそういうことが続くから生きていけるんだな…ということ。
そしてそれらは誰かにやってもらうのではなく、自分で思うようにやってみれば結果はどうであれ納得出来るんだろうな〜ということでした。
マギースミスが一番いい味出していました。
肌の色で人を差別していて、車椅子頼みの人生から次第にメイドにも心を開き、自分の足で立ち上がる。いい感じでした。
しかし、外国の人たちってこんな簡単に異国文化に溶け込めちゃうのかしらん…インドがそういうお国なの?
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