楽園からの旅人 : 映画評論・批評

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楽園からの旅人

劇場公開日 2013年8月17日
2013年8月6日更新 2013年8月17日より岩波ホールほかにてロードショー

安易な救済とは無縁な、ささやかな希望の原理を提示

エルマンノ・オルミは最晩年のアンドレイ・タルコフスキーの境地に近づきつつあるのかのようだ。自ら最後の劇映画と語った前作「ポー川の光」で、ボローニャ大学のおびただしい古文書を太い釘で突き刺し、ポー川のほとりに隠遁した若き哲学教授は村人から「キリストさん」と呼ばれた。本作はその屈託に満ちた宗教的なビジョンを更に深化させた、簡潔きわまる一幕物ふうの変奏といえよう。

映画は解体業者によって古い教会が取り壊される場面から始まる。キリスト像が吊り下げられ、聖母子像の絵が取り外され、老司祭(マイケル・ロンズデール)は、悲嘆をあらわにし、途方に暮れるほかない。しかし、宗教の無力さを暗示するかのようなプロローグから一転、廃屋と化した礼拝堂にアフリカ人の不法入国者たちが住み始めるや、そこは聖なる場所として再生する。キリスト生誕を想起させる出産があり、裏切りの密告があり、愛の交流があり、二晩の間に、老司祭は急速に衰弱しながらも聖職者の責務を淡々とこなしていく。

不法移民たちを庇護し、武装した保安委員を語気荒く追い払うシーンをはじめマイケル・ロンズデールの苦悩をたたえた彫りの深い表情のクロースアップはどれもすばらしい。

ロウソクの灯りで浮かび上がるアフリカの不法移民たちの貌をとらえたカットもルネサンス期の深遠な宗教画を思わせる陰影の美しさが忘れがたい印象を残すのだ。

オルミは、あからさまな寓意を込めた終末論的なイメージをちりばめながらも、その類い稀な〈美〉の顕現を通じて、安易な救済とは無縁な、ささやかな〈希望の原理〉をここで提示してみせてくれている。

高崎俊夫

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