ペーパーボーイ 真夏の引力のレビュー・感想・評価
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水泳
1969年、フロリダで暮らす青年ジャックは、問題を起こして大学を追われ、父親の会社で新聞配達を手伝うだけの日々を送っていた。ある日、大手新聞社の記者で兄のウォードが、ある殺人事件の死刑囚にかけられた冤罪疑惑を取材するために帰省。ジャックはウォードの調査を手伝い、その過程で出会った死刑囚の婚約者で、謎めいた美貌の持ち主シャーロットに心を奪われる。殺人事件をめぐる複雑な人間関係に巻き込まれたジャックの人生は、大きく変わっていく。
ジャックが水泳選手というのが伏線。死刑囚(ジョン・キューザック)は釈放されてシャーロットを連れ去り泥沼で暮らしているがジャックたちはそこにシャーロットを取り返しに行くが、既にシャーロットは死んでいる。ウォードも殺されてしまうがジャックは沼に潜って二人の遺体を運び、死刑囚は殺人で再び刑務所へ、ジャックは作家となって有名に。ラストシーンは二人の遺体をボートで運ぶジャックが描かれている。
苦く痛い青年の成長譚
大学も水泳選手としても挫折を経験して故郷の町に戻り、父親の新聞社を手伝うジャック。
幼くして母親と別れた彼は、まだ何処かで母親を求めている。それは、家政婦のアニタに甘える様子や、年上のシャーロットに惹かれたことからも明らかだ。
挫折を経験したとはいえ、ジャックはこの物語の中で、唯一まだイノセントな存在なのだ。
その彼が、兄のウォードと共に殺人事件の真相を探る過程で、父親、信頼していた兄、恋をした年上の女、DVサイコパスのヒラリーら周囲の人間の“業”を見せつけられ、彼自身のイノセンスも穢され、傷つけられる。
メイン・ストーリーはあくまでも、殺人事件(冤罪事件)の真相解明なんだろうが、
M・マコノヒー、N・キッドマン、J・キューザックがそれぞれ演じるウォード、シャーロット、ヒラリーキャラクターが濃密、強烈過ぎて、メイン・ストーリーがぼやけてしまった感否めず。
肌にまとわりつくような熱気を実感出来るこの季節にピッタリの一本であることは間違いない。
僕の美しい人だから
この映画、「ポップ1280」とか好きな人には、たまらないんじゃなかろうか。
舞台設定は1969年だが、ちょっと古めの1950年あたりのクライム、ジム・トンプスンとかハドリー・チェイスとか好きな人は、絶対はまるような気がする。(なんかピンポイントすぎる薦め方で気がひけるが…)
もちろん、そんなピンポイントなファンじゃなくても、豪勢なキャスト&練られたお話は充分魅力的だと思う。
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あと他の方も書いてらっしゃったが、すんばらしい童貞映画だと思った。
でもまあ、ほんとの少年がこれ観ちゃうと、大人になるの大変そう&面倒くさそうと思うかもしれないので、観ない方が良いかも。
一癖も二癖もある(癖ですませられるのか?)大人たちばかり出てきて、主人公の童貞&観客を困惑させるわけだが…。
ただ、単なるコケオドシのエロとグロを並べてみましたっていう映画ではなく、思いの外かなり真面目に作ってあって、なんでそんな大人達になっちゃったのかが、痛いほどよくわかる。腑に落ちないシーンは1つもないので、えらいなあと思った。
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なんといっても、
マシュー・マコノヒーとジョン・キューザックの刑務所での面会シーンが出色だった。
観客はそれを見て、「マコノヒーそういうことか…」と、なんとなく察する訳だが…。
それがラストに繋がっていて、落とし前の付け方に、唸るしかなかった。
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そして、ニコール・キッドマン。
最初は、どうしても彼女の「歯」が気になっちゃって…。メイクも服装も演技も田舎のヤサグレ女仕様なんだが、「歯」がハリウッド女優仕様でキレイすぎた。田舎のヤサグレ婆の歯はもっと汚い。田中絹代みたく歯を抜けとまでは言わんがなあ…。と思いながらも、段々演技に引き込まれ、ラストあたりでは気にならなくなっていた。
役柄も、ガス・バン・サント『誘う女』系のイヤな女かと思ったら、
『僕の美しい人だから』的な、むしろ良い婆系だった。
彼女が、お坊ちゃんの童貞君ではなく、死刑囚を選んでしまうあたりは、判りたくないけれど、納得するしかない哀しさだった。
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その他の登場人物も悲しくなるほど罪深い。
物語の愛と罰を静かに見続けるメイシー・グレイ(主人公の家のメイド役)の視点が、監督の視点なのかなあと思った。
テーマを欲張ったため、冤罪の謎解きにしろ、黒人差別にしろ、はたまた注目のキッドマンのバードコアなシーンにしろ、どれもが悪くはないが中途半端
「神様も汗ばむほど暑かった」。
こんなセリフで始まる本作。舞台は、1969年の米南部フロリダで、うだるような蒸し暑い夏でした。じわりと吹き出る汗と湿地帯のうだるような暑さに包まれながら、白人家庭で働く黒人女性の視線を時おり交えて語られる人間模様は、ねっとり濃密に編み上げられて息苦しい程。でも作中にたちこめる不快さの正体は高い気温や湿気ではなく、人間社会に潜む差別や格差の根深さにあると感じられました。
殺人事件を軸にしたミステリーの体裁をとってはいるけど、人や町が隠し持っている罪深き業というものをえぐり出いる作品です。主要な登場人物は欲望に満ちていて、さまざまな顔、性のにおい、出世欲や愛欲や支配欲が渦巻く姿が描かれます。
そして『プレシャス』で高い評価を得た黒人監督だけに、人種や貧富による差別など、そこには、アメリカン・ドリームの神話が隠蔽する米国の本当の空気、マイノリティーの側から見た社会の姿を浮き彫りにしていこうとしている意図が覗えます。
ただテーマを欲張ったため、冤罪の謎解きにしろ、黒人差別にしろ、はたまた注目のキッドマンのバードコアなシーンにしろ、どれもが悪くはないが中途半端で散漫になりがちなのが残念なところです。特に、ザック・エフロンとキッドマンの絡むところは、何故か行為の前半で場面カットされてしまうんです(^^ゞニコールが、白ブリーフ一枚で転げまわるエフロンの目の前でおしっこをするシーンは、さすがに衝撃的でしたが(^^ゞ
とある黒人女性の回想という体裁で語られる物語は、人種差別主義の白人郡保安官が殺されたところから始まります。その結果、沼地に住む貧しい白人のヒラリーが逮捕され、死刑が確定するのです。
一方、水泳選手の夢破れ、父親が社主の田舎町の新聞社で働くジャックは、帰郷した大手新聞の記者をしている兄の運転手となって取材を手伝うことに。兄は前途の郡保安官殺しが冤罪だと直感して、黒人の同僚ともに再調査に来たのでした。
さらに、この兄弟に、ヒラリーに同情して文通、婚約までした、ぶっ飛び気味の金髪美女シャーロットが行動を共にするようになります。
ジャックは、たちまち彼女のワイルドな魅力に惹かれて激しい恋心を抱いてしまいます。ウブな青年が募らせる年上の女性への想いを、当時流行したソウル・ミュージックで彩ったりなど、この映画にも甘美な場面はありました。
しかし、常にダークな憂鬱が本編を包み、甘っちょろい甘美さを飲み込んでいきます。散漫になりがちな中にも、ドラマの核心部分には、猟奇的な殺人事件の謎はキチンと描かれていて、真相が明らかになるラストでは、犯人によって重要人物が殺されてしまう衝撃的なヤマ場を迎えるのです。
一連の出来事すべてが、ジャックには心の傷として刻み付けられます。その痛さこそ、本作の本当のモチーフなのかもしれません。
何をやっても思うようにいかないシャーロットの人生に哀れを覚え、そんな彼女に恋をしたジャックもまた哀れに思えてなりませんでした。とはいえ、ジャックにはいい人生勉強になったことでしょう(^^ゞ
そんなひと夏の経験が重なり合い交じり合って、青春の光と影の陰影が強烈な物語となったのです。
童貞映画としても素晴らしい
主人公が童貞で非常にもんもんとしている感じがとてもよかった。主人公のはるか前を歩いているお兄さんは当然、主人公よりずっといい思いをしていると思っていたら全く違って苦しみもがいていた事にびっくりした。
うだるような暑さが画面から伝わってきて、それがいろいろな意味で逃げ出したくなるような暑さであったことが映画の内容に非常にシンクロしていて素晴らしかった。
クライマックスで急にサスペンスフルな展開となってドキッとした。あの場面では童貞ではなくなっていた主人公が、一人前の男としてしっかりしているところがとてもかっこよかった。
素晴らしい映画だった。
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