「奇跡のリンゴ」奇跡のリンゴ 悲笑路さんの映画レビュー(感想・評価)
奇跡のリンゴ
映画そのもののストーリは単純で誰でも見る前に把握しているだろう。またそのような名作を映画化する映画があってもよいしよくあることだ。ただしその場合には、聴視者はいつも以上に、演出や俳優の演技力に注目する。
まず演出だがこの映画の主旨がはっきりしない。感動的な人生を演出したいという割には喜劇性的場面が多い。最後を盛り上げるために、途中の悲惨さをあからさまに出すのはよいが、ちょっと悲惨すぎて目も耳も覆いたくなる。TVドラマならまだしも映画であそこまで見せる必要はない。これでもかこれでもかという「いじめ」のシーンが続き下を見てしまった。後主人公の阿部サダオの演技がいまひとつ。一生懸命なのはわかるが、それが過ぎて却って興ざめする場面が多い。本当に悲惨な人生を送る人はきっともっとひたむきで物静かなものである。それを考えると、ちょっとやかましすぎる。ひょっとしたら台詞にもあったように、間が抜けている底抜けなところを強調したいのかもしれいが、ストーリーは至ってシリアスに展開していく。このアンバランスのために、本当に映画にのめりこむことができなかった。それをおしてもすばらしかったのは他の俳優、山崎勉や菅野美穂、原田美枝子、伊武の演技力である。それだけに主役の阿部の演技(または演出)が妙に浮いて見えたのが残念だ。なぜかTVドラマの域を出ていないのはそこに原因があるのではないか。
ちょっとジャンルは違うけど、渥美清が名演を演じた「泣いてたまるか」シリーズと重なるところがある。渥美清のくそ真面目だが、失敗を繰り返して出す涙は本当に心に心にしみた。阿部サダオ氏も是非そのような悲しみを背中で演じるペーソスを身につけて欲しい。
今回のこの映画は主人公を必死でささえる脇役の山崎勉と菅野美穂の名演技に支えられた。