「"誰かの幸せを祈ったぶん、他の誰かを呪わずにはいられない"」劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 前編 始まりの物語 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
"誰かの幸せを祈ったぶん、他の誰かを呪わずにはいられない"
ぶりぶりの絵に馴染めず、最初はこれのどこが面白いんだよ?と思いつつ観ていて、主役級のマミさんが頭を魔女に食べられるシーンで、はっと我に返りました。
これは、何かが違うぞ、と。
キュウべえとの契約は"奇跡を一個叶えるかわりに、魔法少女になる"なんです。
魔法少女達は力の源として、"ソウルジャム"っていう宝石が埋め込まれた香水瓶のようなものを持っています。実はこの中には、彼女達の魂が入っているんです。体は蛻の殻。傍にソウルジャムがないと、死人のようになります。
つまり"その願いに魂を賭けられるか?"です。
さやかは"好きな男の子の体が治って、またヴァイオリニストを目指せるように"と願い、魔法少女になりました。が、そのせいで、ゾンビのような体に負い目を感じる。こんな体では、好きな男の子の傍にもいけない!まるで足のかわりに声を失って、最後には泡になる人魚姫みたいです。
彼が他の女子と仲良くしているのを見て、嫉妬が渦巻く。
怒りが湧き上がる。
恋しい。
空しい。
恨めしい。
自分の犠牲を知らない彼が恨めしい。
彼の傍にいるあの子が憎らしい。
"誰かの幸せを願ったばっかり"に、その心の中にどす黒い感情が渦巻く。
好きな彼に夢を叶えてほしいのか?
好きな彼が夢を叶える恩人になりたいのか?
マミさんの言葉が蘇る。
その感情に気付いた瞬間に、さやかは自分の行動が自己犠牲ではなく、見返りを求める醜い欲望からだったと気付くんです。
けれど正義の味方だから。きっと私の使命だから。魔女と戦う!でも、その正義感だって、貴女の自己満足じゃないの(ニヤリ)?という切り口。
そしてさやかの心は、壊れる。
ソウルジャムの中の魂は汚れていき、正義の味方だった魔法少女は魔女になる。
そう、自分達の敵に。これ、"円環の理(えんかんのことわり)"と言われ、魔法少女の運命とされています。この円はまどかと読むことができ、まどかちゃんがこのエンドレスな状態の、何かしらの鍵になるのでは?と思わせる……(以下自粛)。この部分は、
"[新編] 叛逆の物語"で明らかに!
魔法少女達は、まるで自分達の心と戦っているようなもんなんです。
キュウべえは、勿論そのことを知っています。魔法少女を作ると、必ず魔女になる。
正義は必ず悪に。そして悪を倒す正義がいる。正義、悪、正義、悪のエンドレス。
カオス。いや、正義だろうと悪だろうと、そこから生まれる別次元の"利"をキュウべえは求めています。それは"[新編] 叛逆の物語"で明らかに!
誰かが幸せでいるとき、どこかで誰かが不幸になっているのかもしれない(最近の日本人は、ここの想像力が欠如してると思う)。
ここまでくると、さすがにお分かりになると思います。
本作、ぶりぶりだけじゃないって!
(あの、こんな調子でいきますが大丈夫ですか?さぁ!ついて来てくださいね!)
まどかちゃんは普通の子に見えますが、魔法少女の高いポテンシャルがあると言われる(ま、ここに含みがあるワケなんですが)。でも願う"奇跡"が決められない。
中途半端な状態で魔法少女達の戦いを、足手まといになりながら「危ないことやめてよー」なテンションで見守り続けます。が、やはりまどかちゃんが、鍵というね(以下自粛)
ここ、エヴァの、シンジくんを彷彿とさせます。
同じく中二で、ポテンシャルはあると言われながら、なかなか前に進めない。
あ、でもエヴァはTV版の1話とラストしか観てないので、比較ができません。すみません!
こう、うじうじしてた子が実は凄い!っていうのは、厨二の大好物です。
え、厨二な妄想と仰います?でも、このよわっちい子が実は……、はベストキッドだって、蛇拳だって、スパイダーマンだって、ネバー・エンディング・ストーリーだって、映画の中には沢山あります。
映画業界は、厨二で支えられてると言っても過言ではありません!
さやかが人魚の魔女になると分かったとき、まどかはそれを止めるために魔法少女になる決心をします。そこで明らかになる、ほむらちゃんの意外な正体!
冒頭の「今の自分とは違う自分になんてなろうと思わないことね」の意味。
想像もしてなかったほむらちゃんの目的。キュウべえさえ知らない、衝撃の事実が!
ううー、後編につづく!!
あと、一つだけ!ここまで女子の友情を描いた作品を知りません!
魔法少女の最終的な武器は、魔力じゃなく、"友情"なんですよ!やだ、感動!でもこの感動さえ、 "[新編] 叛逆の物語"では一旦は否定され、別のもっと凄い感情に救われる?飲み込まれる?んですが……(以下自粛)
有名な先生方(宮崎哲弥先生とか、宮台真司せんせとか)がファンのようで、本作を考察されています。原発事故と結びつけたり、政治哲学者のマイケル・サンデルと結び付けたりして本当に面白い(よろしければ、ググってくださいませ)。
でも先生方には申し訳ないけど、私はそのどれとも違うように感じました。
自国の独立、宗教の絶対性、主義の正しさを強く願うあまりに、(反対の)国や人を憎み、呪う。願いに魂をかける=願いに命を賭ける。しかし正義と思って命を投げうって、他者を傷つけて、結果的に自分が誰かの敵になる。正義が悪に悪が正義に。憎しみの連鎖。エンドレス。その連鎖をワザと仕掛けて、そこから大きな利益を得るキュウべえ=某国(言及しません)という構図。最終的に救うのは友情=他国との友好関係。でもその友好関係だってさ。あれでしょ?ってニヤリと笑う。
ぶるぶるします。
これ、国際紛争の話(戦争)ですよね?どんなに崇高な願いがあったとしても、それは"人間の欲望"がベースでしょう?と。何かを強く願うと、どうしても何かを憎む結果になる。
同時に、魔法少女達の苦悩って、子供だけではなく、大人社会のもやもやした現実も突きつけてくる。
この苦しみは、誰にも分からない(さやか)。
何のために仕事(魔女と戦ってるのか)してんのか、わかんない(さやか)。
私なんか、どうせ何もできないから(まどかちゃん)。
でも本当は、やればできる子!と信じたい。まだ本気出してないだけ(まどかちゃん)。
なんで、あんな馬鹿な話を信じてしまったんだろう(魔法少女の契約)。
とか。頭の中をもやもやがグルグルする感じ。
だけどお話の中では、この悩みすべてをポジティブな方向に変えてくれていた、マミさんって存在があった。でもこのマミさんは、かなり早い段階で、食われちゃう。
さぁ、みんなでグルグルしようよー。リアルってそういうもんっしょ?みたいな。
なので、本作はいい歳したおっさんファンが多いみたいですよ。みんな見た目ぶりぶりだけど、中身は一本筋の通った結構男前なんですよ。ほむらちゃんとか特に。
えっと、あの、ああぁ……、書きたいけど止める!
本作は、新房昭之監督とアニメスタジオ"シャフト"、そしてキャラクター原案を蒼樹うめせんせ、脚本家の虚淵玄氏といったメンバーで作った、オリジナルアニメです。
ぶりぶりの女の子達の心のダークな部分と、"劇団犬カレーさん"のグロ可愛い映像がマッチしてて、予想以上に凄く面白かったんですよ!
なんかこういうの観ると、ちょっと怖くなってしまいます。
もしかしたら偏見に凝り固まって、凄い映画を見過ごしているのかも。
人生短いので、面白いとオススメされた作品は、やっぱ積極的に観ていこうって反省しました。
PS "[新編] 叛逆の物語"では、私の大好きな"リベリオン"オマージュの素晴らしいガン=カタなシーンがありますよ!是非!