すーちゃん まいちゃん さわ子さん : インタビュー
柴咲コウ、過渡期を経て“リリース”した心のありよう
「自分の人生は自分にしか分からないもの。だから、心の底にある自分の声を日々聞いてあげることが大事だと思うんです。それが楽しく生きるひとつのコツかもしれないですね」。30代に突入した柴咲コウは、非常に前向きだ。しっかりと自分の内面を見つめ、自分の足で立っている。その凛とした姿は、そのまま「すーちゃん まいちゃん さわ子さん」で演じたすーちゃんと重なる。しかし、そう思えるようになったのは最近のことで、「ここ1年くらいは過渡期で心に変化があったんですよね」と、振り返る。彼女を変えたのは何だったのだろうか。(取材・文/新谷里映、写真/堀弥生)
「いままでは、(何か障害があると)周りのせいにしたり、周囲に期待しすぎたりしたこともあるけれど、自分の人生は自分で作っていくしかないじゃないか、それが楽しいんじゃないかって、やっと気づけた気がするんです。そうしたら、固定観念や先入観を持つことも無駄に思えてきて、最近リリースしたばかり(笑)。世間や他人を変えるよりも自分を変える方が楽だなって思っちゃったんですよね。それまでには、もんもんとした時期もありましたよ」。自分の心の変化を言葉にして伝えられるということは、確実に一歩前へ進めたという証。しかも、柴咲のその発言は多くの人に影響を与えるわけで、それを知った上での告白は、ある意味とても大きな告白だ。
そんな柴咲は女優として歌手として、デビュー当初からずっと注目されている、いわゆる売れっ子だが、パブリックイメージが勝手に出来上がっていけばいくほど、それを「覆したい!」という反発精神が生まれたと言う。そんな心の叫びを代弁しているのが、歌手としての柴咲なのかもしれない。というのも、すーちゃん役に柴咲コウがぴったりなのではないか? と、御法川修監督がピンと来た場所は、プライベートで訪れていた柴咲のライブ。「詞の世界感に反映されている孤独感を自分で消化しようとしているところ、向き合おうとしているところが、すーちゃんを演じられると思ったのかもしれないですね」と分析する。
この物語の主人公は、30代の3人の女性たち。すーちゃん(柴咲コウ)、まいちゃん(真木よう子)、さわ子さん(寺島しのぶ)の生き方を通して、どんな女性も共感できる「そうそう」「うんうん」「分かるなぁ」という、決して特別ではない心の悩みを、丁寧かつリアルに描いていく。大きな事件があるわけでもない、どんでん返しのような仕掛けもない、けれど「そういうものがない映画っていうのが、いいんですよね」とほほ笑み、「それをどう豊かにするのかが自分(役者)の役目だと思ったんです」と、キリッとした表情をみせる。柴咲はすーちゃん役とどう向き合ったのか。
「話をいただいたときも撮影中も、不安に覆われている状態だったんです。でも、それはものすごく大きな不安感ではなく、漠然としたというか、すーちゃんみたいな感覚というか。大きな悩みがあってもんもんとしているのではなく、何て言うのか……私の人生とは? とか、自分が何に対して不安になっているのか? とか。それはやっぱり対人関係なんですよね。自分のパフォーマンスを受け取る人たちの気持ちをあまりにも汲みすぎてしまって、疲れていたんです。そこから脱したいなと思う渦中にいた。だから(すーちゃんとは)住む世界は違うけれど、確かに共鳴する部分はありました」
その“共鳴した”という感覚は、しっかりとスクリーンに映し出され「初号を見たときの感想は、恥ずかしい……だったんです」と、柴咲本人もその共鳴の度合いに驚いた。「自分の顔が出ているからではなく、自分の気持ちが透けてしまっていて。私の表立って見せない部分が、見えちゃっているじゃん!って(苦笑)。敢えて見せようと思って見せたわけではないので、もうリンクしたとしか言いようがないですよね」。その言葉からも、柴咲とすーちゃん役の出合いは運命だったと言えるだろう。また、すーちゃんはカフェ店員。“料理”というキーワードも柴咲の日常とうまくリンクし、御法川監督からの「日常感を大切にしてほしい」という要望も役柄に取り入れられた。
「すーちゃんはカフェの店員さんなので、カフェでどういう料理を提供するのかを考えていると思うし、生活して、料理して、洗濯物をたたんで、ふとんに入る前にジャーに残ったご飯を冷蔵庫に入れて寝るという、そういう本当にある感じを大切にしたいと監督からヒントをもらいました。私自身も料理は好きだけれど、波はあります。パートナーとか子どもがいるわけではないので、作りたいときは作る、作りたくないときは作らないという感じですね。ただ不思議なのは、撮影中は毎日料理を作りたい自分だったんです。毎日撮影が早く終わるので、撮影が終わるとスーパーに寄って、家に帰ってご飯を作って寝るという(笑)。役を考えつつ自分の人生も考えていた感じ。料理をしていると自分(の心と体)をケアしていると感じられる、命をいただいているんだなと感じられるんですよね」
そんなふうに自分自身をケアするヒントがさりげなくちりばめられているこの映画は、きっと何度も見たくなる、見て心を温めてもらいたい映画として観客の心に刻まれるだろう。もちろん、そのなかには恋愛の悩みもあり、すーちゃんをとりまく2人の男性についても「中田マネージャー(井浦新)は優柔不断だからいやですね、でも千葉くん(染谷将太)はいいと思う! すーちゃん的には千葉くんは年下で年齢を気にしてしまうかもしれないけれど、私はあまり気にしないタイプ。年齢は関係なく感性が豊かな人がいいです」と、はっきり自分の好みを言えることも素敵だ。そして「実は臆病なんですよ(笑)」と、照れくさそうに恋愛観を語る。
「たいがい(好きという気持ちは自分から)引いちゃいます。受け身だし、期待するし、妄想も得意だけど、自分から仕掛けていくのがなかなかできなくて。したたかな女性になりたいなと思うことは何度もありました。もっと毅然とできたらいいなとも思うし。けれど、できないんですよね(苦笑)。すーちゃんもそういうことで少しずつ傷ついている女性で。そんな彼女を演じてみて気づいたのは、自分自身が本当はどうしたいのか? ということ。自分は好きなのか嫌いなのか、どんな小さなことも自分の気持ちはどうなのか? を考えて選択することによって、上手いことつながっていくんじゃないかなって。妥協したり都合の良さを優先させて自分の本音を押し殺してしまうと、いい縁があってもすれ違ってしまうかもしれないですからね」
縁ということで言えば、すーちゃんにとっては、まいちゃんとさわ子さんとの出会いも“いい縁”だ。学生時代から続く友情も、この3人のように大人になってから出会い生まれる友情も、生きていくうえでは欠かせないもの。柴咲にとっても「友情が日々の癒しになっている」と、やわらかな表情を浮かべる。
「数はだいぶ少ないとは思うんですけど、私もすーちゃんたちのような友情は持っています。ただ、昔と今と違うのは、いままではこれってどう思う? って親しい友人に答えを求めていたけれど、大人になると、話したいことや相談したいことが減ってくるというか。結局は自分で答えを出さなくてはならないことに気づくんですよね。でも、ただ一緒にいる、何でもない世間話をする、相手の近況を聞くというだけで、何かヒントをもらえるんです」。人との付きあい方の変化も含め、そういう細かい変化を感じられる人だからこそ、柴咲コウにすーちゃん役が舞い込んだのだろう。
すーちゃん、まいちゃん、さわ子さんは、異なるタイプでありつつも女性の心の叫びを代弁しているキャラクター。きっとすべての女性のなかに彼女たち3人がいるはず。