「単なるおバカ映画かと思ったら・・・」アイアン・スカイ tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
単なるおバカ映画かと思ったら・・・
正直予告編を見た段階では「おバカ映画のドンパチもの?」と思ってあまり期待はしていなかったが、結果は良い意味で予想を裏切ってくれた。第二次世界大戦末期にナチスが月に逃れ、都市国家を築いていたという設定自体はおバカ映画には違いないのだが、上滑りのコメディではなく、気の利いた風刺映画の面も持っている。
ヴィヴィアン率いるアメリカ軍がナチスの月面都市に対して「アメリカはテロを許さない」と一般市民への無差別攻撃を強行したり、宇宙平和条約に反して各国(日本も含めて)が宇宙戦艦を持っているのを互いに「条約違反だ!」と非難し合ったり、密かにヘリウム3を確保していたことがばれたアメリカが「月はアメリカの領土だ。だって最初に旗を立てたから」と開き直ったりするところなど、大国のエゴをうまく俎上に上げている。
結局それが元で核戦争が勃発し、地球人類は(多分)滅んでしまい、旧ナチズムの誤りに気付いた心優しきレナーテ率いる新生ナチスが、人類の再生を担うという皮肉な結末を迎えるのだが、地球の上を核ミサイルの軌跡がゆっくりとはしり、その終端で核爆発の起こるシーンは一種のもの悲しささえ覚えてしまう。
最近の映画は女性キャラの強さが目立つが、この作品も3人(レナーテ、アメリカ大統領、ヴィヴィアン)の女性の存在感が際立っている。それに引き替え男性キャラはジェームズにしてもクラウスやリヒター博士にしても、もう一歩はじけ方が足りない感じで、あまり魅力を感じない(例えばもしジェームズをウィル・スミスが演じていればなどと思ってしまう)。
もちろん突っ込みどころは色々あるが(クラウス達が月面の6倍の地球重力下で何の苦も無く行動できたり、エニアック並みの機能しかないコンピュータ(真空管式?)で宇宙航行をしたり、「神々の黄昏号」のあの巨大なチェーンと歯車は、どんな仕組みでヘリウム3による核融合反応からエネルギーを取り出しているのかよく分からないなど)、それに拘るのは野暮というものだろう。
ビジュアルもしっかり見応えがあり、気楽に観るのにはお勧めの一品である、