「日本よ、これが国際風刺映画だ!!」アイアン・スカイ マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
日本よ、これが国際風刺映画だ!!
「ナチスが月からやってくる」とはなんと大胆なことを思いついたものか。これほど荒唐無稽な話は聞いたことがない。
アメリカの大統領が再選を目指したPRロケットを月に向けて打ち上げるというところから始まるのだが、この事自体、すでに常軌を逸している。早くも我が物顔のアメリカの傲慢さを揶揄している。
喜んで月面に立つ宇宙飛行士を月の裏側に潜んでいたナチスが拉致するわけだが、その出で立ちが凄い。化学兵器でも使っていたかのようなマスクをつけた親衛隊が現れる様は異様だ。
40年代に月に逃れるだけの技術を持ちながら、いまだに手にするのはワルサーP-38で、古臭いサイドカー付きオートバイで移動する。連れて行かれた先は鈎十字型の要塞という念の入れようだ。この妙ちくりんな作り込みとバカバカしさ、そしてあまりのレトロさと、月と地球の間は自由に行き来できる技術とのギャップに笑ってしまう。
過去に地球人が見たというアダムスキー型UFOはナチスの偵察機だったのかも知れないと納得してしまうからコワい。
そんな彼らが遭遇するのは、宇宙飛行士が黒人で、アメリカ大統領が女だという地球社会が変化した現実だ。
地球侵略のための最終兵器「神々の黄昏」号を動かすための切り札を見つけるが、これが地球では誰もが持っている小さなアイテム。「神々の黄昏」のメカがまた無意味にスゴい。
レッド・ツエッペリンばりの大型戦艦からはスターファイターのごとく戦闘機が飛び立つ。
ナチスのことを笑ってばかりはいられない。地球上でも各国が虎視眈々と月の地下資源を狙っていたりする。お互い、相手の腹を探り合う国際会議の席上、世界を救えるのはアメリカだけだと自慢するように打ち明ける宇宙戦艦の艦名が、過去の戦争好きだった大統領の名前だったりするから、もはややりたい放題だ。
それに反応する各国ももはやジョークを通り越して笑っていられない。対抗するモノを持たない国ははじかれる。それが現実だ。ほかの国を辛辣に揶揄する表現は、邦画にはないブラックな面白さがある。
アメリカ大統領の女性広告官の名前がヴィヴィアン・ワーグナーだが、ワーグナーはドイツが起源の姓だ。探れば探るほどキツいジョークが見つかる。
ナチスのマッドサイエンティスト、リヒター博士の人体実験で白くされた黒人のジェームズの「白人になったらすべてを失った」というセリフまで、93分のどこを切ってもブラックなのだ。