「勇気ある試みは意義があるけど、応援はしたくない」死刑弁護人 全竜(3代目)さんの映画レビュー(感想・評価)
勇気ある試みは意義があるけど、応援はしたくない
一見、スティーブン・セガールあたりが大暴れしそうなB級アクションを想像しがちなタイトルに反し、中身は真逆のガチガチの社会派ドキュメンタリー映画である。
主に凶悪事件の被疑者の弁護を担当し、死刑を回避させようと奮闘する弁護士・安田好弘の活動を膨大な記録とインタビューを交えて取材している。
和歌山毒入りカレー事件、新宿西口バス放火事件、オウム真理教事件、光市母子殺害事件etc.etc.どれも多くの人命が奪われた残虐な事件ばかりで、胸が痛くなるが、毎回、記者会見に冷静な語り口で臨む安田氏の言動に以前から興味があり、劇場に出掛けた
人を人とも思わない稀に見る凶悪事件の容疑者の無実を訴える姿は、“悪魔の弁護人”と呼ばれても致し方ない。
バッシングを受けようが、死刑反対を叫び続けるブレない闘志は、罪の深さを理解したうえで、マスコミや検察の巨大権力への強烈な反骨精神から生まれている。
全ての情報を鵜呑みに先走った感情論で死刑を求める大衆へのアンチテーゼとも云える。
なぜ犯人はこんな惨い凶行に走ったのか?環境や背景に目を向けようとしないのか。
加害者を断罪をすれば全て解決できるのか?
真実は他にもあるのではないか?
etc.etc.事件に対する可能性を命懸けで1人1人に問いている。
林真須美はカレー鍋に砒素を入れたのか?
麻原彰晃は全ての事件を指揮していたのか?
元少年は母子に殺意を持っていたのか?
自分自身も逮捕され、満身創痍になりながらも、
“本当にそれで正しいのか?”
常にクエスチョンを投げかける生き様は、矛盾も多いが、公平な司法を維持するうえでとても必要な存在なのかもしれない。
しかし、死刑を求める光市母子殺害事件の父親を見ると、
被害者には
「そんなもん関係ねぇよ」と一蹴されてオシマイだろう。
絶対に同情されない運命である。
タイガー・ジェット・シンのように、安田氏がヒールで有り続けていく意味を理解するには、あとどれほど命が犠牲にならなければならないのか…。
事件の渦に巻き込まれなければ、答えは絶対に解らないだろう。
アメブロを覗くと、インチキ細胞学者に
「こんなヤツ死刑だ」の声が殺到していた。
映画を観た直後ゆえか、
「そんな簡単に死刑、死刑言うなよ」と
苦い缶コーヒーを啜りながら思った。
では最後に短歌を一首
『裁かれし 命を護る 傷背負い 償いの渦 真実を問う』
by全竜