「大人の為の絵本」ムーンライズ・キングダム 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
大人の為の絵本
風変わりな作品で知られるウェス・アンダーソン。
その極みとも言えるのが2001年の「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」だが、もう一本、新たな代表作が誕生した。
1960年代、ニューイングランドの小島で、ボーイスカウトの少年隊員が脱走。しかも、島に住む少女と駆け落ち! 大人を巻き込み、のどかな島は大騒動に…!
独特のアンダーソン・ワールドに、メルヘンの味わいがプラス。絵本のようなファンタジックな雰囲気。
美術も衣装も小道具もカラフルでポップ、画面の構図もユニーク。細部に至るまでアンダーソンのセンスを感じる。
アレクサンドル・デプラのリズミカルな音楽も心地良い。
駆け落ちする少年少女、サムとスージー。お互い問題児。
孤児のサムは里親にもボーイスカウト仲間にも嫌われ、スージーも家族に反抗してばかり。
この二人の“小さな恋のメロディ”はちょっと変わってるけど、とってもピュア。
そのピュアな姿にボーイスカウトの少年たちの心も動き、一度は連れ戻された二人を助ける。
それとは真逆に大人たちは、不倫していたり、しょぼくれていたり、頼りなさげだったり…滑稽で皮肉たっぷり。
この映画は、純粋な心を忘れた大人の為の絵本なのだ。
主役の二人の子役が見事。
サム役ジャレッド・ギルマンの何処にでも居るような眼鏡少年ぶりがイイ。
スージー役カーラ・ヘイワードはおませで小悪魔的な魅力を振り撒く。
周囲の大人たちに、ブルース・ウィリス、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン、ハーヴェイ・カイテルら豪華キャスト。いずれも作品に溶け込んでいる好助演。特に、ウィリスはしょぼくれ警部役で新たな一面を見せ、役柄的にも美味しい。
キュートでハートフルでちょっとシビア。
クセになってしまいそう。
アンダーソン・ワールド、健在!