「必ず誰にも“さようなら”する日がやってくる」みなさん、さようなら 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
必ず誰にも“さようなら”する日がやってくる
船の中で生まれ、船の中で育ち、一歩も船を降りる事のなかったピアニストの話は観た事あるが、こちらは、団地で生まれ、団地で育ち、一歩も団地から出ない青年の話。
実際に居そうなリアル引き籠もりくんの話に非ず。
ある青年の17年を見つめた、しんみり胸に染み入る作品であった。
序盤はこういう設定だし、コミカルなタッチ。
開幕早々、「団地の中だけで生きていく」と宣言する主人公・悟。
それを応援する母。
…って、オイオイ!
一日の過ごし方、TVで見た武道家に憧れトレーニング、夜は団地に住む同級生を見回るパトロール…。
就職も団地内のケーキ屋に。
不思議な事に、何故か美女も寄ってくる。
倉科カナに波瑠だぞ!
羨まし過ぎるぜ、コンチクショー!
ニュース映像の入れ方も絶妙。
あの武道家って実際の人だったんだ…!
そもそも、何故、団地の中だけで生きる事を決めたのか。
中盤、その理由が明かされる。
小学校時代のあるトラウマ。
本人は“出ないだけ”と言っているが、実際は“出れなくなった”。
中盤以降はシリアスな展開に。
友は団地を出て行く。
好きになった女も去っていく。
団地内の商店街も次々閉鎖していく。
団地も一棟一棟廃墟になっていく。
時代の移り変わりと共に悟の周囲は変わっていく。
変わらぬのは、悟だけ。
ある時、思わぬ事態に巻き込まれる…!
こういう風変わりな役をやらせて、今の日本映画界、濱田岳の右に出る者はなかなか居ない。
さすがに中学生は無理あるけど、大人になりきれない役柄はハマり役。
中村義洋監督とのコラボレーションはもはや鉄板。
実質ヒロインは倉科カナだが、隣家の幼なじみ・波瑠の方が印象的。
清純派のイメージがある波瑠の意表を突くエッチなシーンあり。
この二人の美女との絡みのシーンが、妙に生々しくてエロい。
ナヨナヨしい永山絢斗、ゲス野郎の田中圭。
そして、母親役の大塚寧々。
ラストの母親の日記には目頭を熱くさせる。
生活の一部だけだったら、団地の中だけでも充分かもしれない。
しかし、長い人生においてだったら…?
いつかは必ず、誰もが、“さようなら”する日がやってくる。