ゲキ×シネ「髑髏城の七人」 : インタビュー
小栗旬&森山未來「髑髏城の七人」がつなげた想定外の友情
「未來は、本当に純粋に芝居が好きな男。そんなヤツを嫌いになる理由なんてないですよ」、「旬は、一緒に舞台をやるまで全然接点はなかったけど、頭に立つ男だと感じましたね」。これは、小栗旬と森山未來が、劇団☆新感線「髑髏城の七人」で初めて一緒に仕事をしたときに抱いた正直な感想だ。今では互いに「未來」「旬」と呼び合う仲だが、それは「髑髏城の七人」によって引き合わせられたものであり──名実ともに日本の若手のトップに立つ2人が、舞台裏をふり返る。(取材・文/新谷里映、写真/堀弥生)
チケット発売と同時に、即完売になってしまうほどの人気を誇る劇団☆新感線。その新感線の舞台を10台以上のカメラでおさえ、ベストショットだけで映画化したのが「ゲキ×シネ」だ。ゲキ×シネが生まれてから8年、記念すべき10作目に選ばれた作品は、新感線を一躍有名にした彼らのアイデンティティと言える「髑髏城の七人」。過去に公演した同タイトルでは、新感線の看板役者である古田新太が主人公の捨之介と天魔王を1人2役で演じていたが、今回は捨之介を小栗が、天魔王を森山が演じ、若いキャストで新しい「髑髏城の七人」を作り上げた。もちろんその背景には大きなプレッシャーと挑戦があった。
森山にとって新感線の舞台は「メタルマクベス」(06)、「五右衛門ロック」(08)に続き3作目。すでに新感線を経験しているからこそ「安定したものにはしたくなかった」と、その志は高い。
「『髑髏城の七人』は21年前に初演して、7年ごとに再演してきた作品。けれど、古田さんは(アクションを演じるには)もう体が動かなくなっていて(笑)。過去には、染五郎さん(市川染五郎)とかも捨之介を演じていますが、古田さんを変えるなら全体的に若くしてしまえ! というのが今回の企画(の主旨)だったと思うんです。古田さんや染五郎さんがやればぴたりとハマるだろうけれど、僕らがそれをやろうと背伸びをしてしまったらこの座組にした意味はない。だから、作品的にも役的にも収まりのいいものにはしたくなくて。ワガママでもいい、荒くてもいい、とにかくワチャワチャとしたものが作りたいなと。だって、初期の頃の新感線はきっとワチャワチャしていたと思うし、もともとはそういう人たちの集団ですからね(笑)」
一方、小栗は新感線初参加にして主演。座長として劇団を引っぱっていくことは想像以上に大変だったはず。加えて、捨之介の一番の見せ場、ハードな百人切りのシーンにも挑まなくてはならなかった。
「百人切りが終わった後にそのまま天魔王との戦いになるんですけど、最初の頃はなんとか戦わずに終わらないかな……と思っていましたね。有酸素運動をずっと続けている状態で、気も張っていて、身心ともに一瞬でもゆるんでしまったら漏れそうなくらい、それほどしんどかった(苦笑)。でも、それは僕だけじゃなく、捨之介、天魔王、蘭兵衛(早乙女太一)それぞれにそういう瞬間があったと思うんです。たとえば、天魔王と蘭兵衛が2人でずっと刀を合わせながらしゃべっているシーンは、よくやってるなあと感心していましたから」
肉体的なしんどさに加え、以前は1人2役だった捨之介と天魔王を別々に演じるからこその特別感をどう演じるのか、それが小栗と森山に課せられた使命でもあった。森山は語る。
「捨之介と天魔王を1人2役で演じていたときの面白さは、同じ人が裏と表、表と裏という歌舞伎的なギミックを用いて演じることにあったと思うんです。それを2つに分けるということは、見せる形、視点がだいぶ変わってくる。能天気で女好きな捨之介、まったく表情を変えずに低いトーンで話す天魔王というスタイルは、1人2役でやっていた面白みであって、それを今回も続ける理由はないんじゃないかなと。じゃあ、どうするのか? 天魔王というキャラクターをどういうふうに変化させていったらいいのか、どういうふうに昇華させたらいいのか、稽古場でけっこう悩みましたね」
そして、新たに生まれた天魔王は、ダンスで鍛えた身体能力と若手随一の演技派と言われる森山だからこそたどり着けた、まったく新しい解釈の天魔王だった。
「やっていることが矛盾しまくりなんですよね。自分から離れていってしまったらグッと引き寄せようとするし、近づきすぎたら殺しちゃうし、とにかく臆病なんです。さっきも言ったけれど、これだけ若いメンツ、これだけ動けて汗のかけるメンツがそろっているんだから、もっとグチャグチャになって暴れ回ればいいと思って。そのなかで(以前の天魔王を意識して)1人だけスッとしているのはつまんないなって。だから、汗かいて暴れ回る天魔王がいてもいいんじゃないかって思ったんです」
捨之介にも新しさがある。演出のいのうえひでのりから「旬の捨之介はすけべじゃなくていいよな」という一言で、以前の女好きという捨之介のキャラクターが塗り替えられた。小栗は語る。
「以前は、沙霧や太夫とちょっとした絡みがあったんですが、中途半端になるならエロさはいらないなと。2役を分けたことによって勧善懲悪ではなくなって、それが今回の面白さだとも思うんです。捨之介が善、天魔王が悪という形になってはいるけど、天魔王も自分なりの正義を貫こうとしただけ、ただやり方がおかしくなっただけなんですよね。古田さんの演じた捨之介は、なんだかんだうまいこと成立させてしまうヒーロー的キャラクターだったけれど、僕の演じた捨之介は意外ともろい。天魔王を倒してから言うセリフ──“俺には仲間がいて、こいつらがいるから闘えるんだ”という、勇気・友情・努力のセリフにも、今回の捨之介らしさが表れていると思います」
小栗と森山という頼もしい2トップによって、劇団☆新感線に若く新しい風が吹いたわけだが、舞台を終えたら酒を飲むという新感線の伝統はしっかりと引き継いだと森山は言う。「他の舞台でも飲みには行きますけど、今回は意識的に飲みに行っていたというのはありますね」と1年半前を回想し、改めて役者・小栗旬について口にする。
「旬は、現場の良いものも悪いものも一身に受けとめるし、抜けがいいし、座組としてぜんぶ引き受けられる器を持っている人だなと感じたんですよね。同年代を見回してもなかなかそういう人はいないもので、貴重な人だと思いました。一緒に舞台をやって気づかされたこと、たくさんあります」
そんな森山の言葉を隣で照れくさそうに聞きながら、今度は小栗が返答する。
「未來は、すごく熱いし真面目。でも、一番好きなところは毎日芝居を見てくれていたことですね。たとえば、兵庫役の勝地(涼)は面白いキャラの担当だったので、今日は笑えた、今日は笑えない、とアドバイスをしたり。それはあくまでも未來の目線なので、演出的に正しいかどうかは別として、そうやって見て言ってくれる人が同じカンパニーにいることはすごく大きなこと。あと、個人的にうれしかったのは、最後の方で飲みに行ったときに、『しかし、こんなに旬と仲良くなるとは思わなかった』と言われて。それだけでもこの芝居をやってよかったなと思いました(笑)」