「ホンモノの社会派エンターテイメント」任侠ヘルパー えらさんの映画レビュー(感想・評価)
ホンモノの社会派エンターテイメント
昨年劇場で1回鑑賞、やっとDVDを購入して2回目鑑賞後の感想です。やっぱり面白い。僕はTVシリーズはチラチラぐらいしか見ていなかったのですが、見ていなくても100%楽しめると思います。TVシリーズから彦一を知っている人とっては感慨深いシーンが多かったのではないでしょうか。
まず僕がこの映画に好感を抱くのが、TV版の焼き増し劇場版ではないというところです。というかTV版と雰囲気が全く違いますよね。ドラマの劇場版というとTV版で成長しきったキャラクター達がテレビと同じようなことを新キャラを加えてスケールアップしてやるというのが一般的だと思います。この作品もそうやってTV版ファンのニーズに応える事はできたはずですが、それをしなかったのは偉い。あくまで介護問題と彦一の葛藤に焦点を当てた作品作りをしています。だから結果的に従来のファンも初見の人も満足させる出来になっているわけです。彦一の言動でTVシリーズを軽く連想させる程度に収めてるのがニクいですね。
だからこそTV版からの友情出演の黒木メイサには若干の蛇足感が…いや、TV版のファンの中には喜ばれてる方もいらっしゃるのは間違いないですが。ただ今回は現実にいそうなキャラクター達の中で細身の美形女ヤクザは明らかに浮いてます。杉本哲太とか宇崎竜童とかほんとモノホンのあっちの方かと思うぐらいハマってたから尚更。客演は宇梶剛士さんのキャラとかにしとけばよかったかもね。浮いてると言えば堺雅章もなんですよね…若いころのパンチパーマかけた堺さんの写真なんか完全にコントですよあれ。
内容についてですが、始まって1時間は心にグサグサ来る生々しい描写満載で、これで主題歌が「Beautiful World」って何かの皮肉かと思っちゃいました。何と言っても介護の現場やそれに携わる人々、介護される側の描写や演技には圧倒的な迫真性があります。本当に心臓が潰れそうになるシーンの連続。悪徳ホームの地獄のような環境やTVではやりづらい排泄物の描写も容赦ない。これらは実際に海辺の土地に実際に木造のホームを建てたからできたわけで、映画でやってくれて本当に良かったと思います。
またキツい描写の積み重ねがあるからこそ個人的な本作のベストシーンが際立っているように感じました。泣き叫ぶ子供とかっこいい漢の組み合わせは泣くよね。
主人公翼彦一は言ってしまえば(少なくともこの劇場版では)ケンカの強いダメ人間なのですが、そんな男が「本物の極道」を探して様々な人間の中で右往左往する様は本当に応援したくなります。なんか彦一のダメさはありがちなとってつけたようなダメさじゃないんですよね。僕はこういう主人公に弱いです。
この彦一像の形成は言うまでもなく草なぎ君の演技によるところが大きいですが、この作品の出演者の演技は皆自然ですね。安田成美さんの介護と育児と仕事にやられてる感じとか見事だと思います。
2回目見て思ったのは、うみねこの家の皆の群像劇的な楽しみ方もできるということですかね。群像劇ではないですが。あの外から覗いてた近所の主婦達もちゃんと手伝ってたりとか、老人達にそれぞれ得意なことや経歴があったり、それぞれにエピソードがしっかりあるという。終盤で安田さんの認知症のお婆ちゃんが空いてないカップ麺を2つ持って待ってるのに気付いてちょっと感心しました。
それと人を救うことの難しさを提起してるところが1回目より印象的でした。これをセリフで香川照之に言わせちゃうのは少し残念かなと思いましたが。政治家と極道という対極的な立場なのにどっちも人を救おうとして割と失敗してるというのは面白い対比だなあと。
長くなりましたが、ここまで社会的なメッセージ性と娯楽性を両立した作品も珍しいと思います。高齢化が進む中でこの作品がますます評価されることを願っています。