「描写は鮮烈だが緻密さに欠ける」悪の教典 tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
描写は鮮烈だが緻密さに欠ける
原作は読んでいないが上映期間が終了するので観に行った。
伊藤英明扮する蓮見が何の罪悪感もなく同僚の教師や生徒を殺していく内容だが、殺戮シーンの描写は鮮烈でも緻密さに欠けるため、蓮見のサイコパスとしての深みや凄みが感じられない。
釣井を殺す手段もあまりに粗雑だし、乗客は気付かなくても今の世の中であれば駅やその周辺に防犯カメラがあるはずで、警察が調べれば不審者は分かるはずだ。また生徒殺しを久米の仕業にして自殺に見せかけるといっても、生きている時に撃ったものか死んでから撃ったものか分かりそうなものだし、衣服の硝煙反応からも久米が大勢の生徒を殺したかどうかは判断できるのではないか。
更にここに登場する高校生達はあまりに無抵抗・無秩序すぎて不満が残る。銃を持っているとは言っても所詮は一人なのだから、もっと生き延びようという執念が出るのが普通だと思う。最初こそ逃げ惑っていたとしても、理不尽に殺されるしかない局面に立たされた時、ただ単に泣き喚くだけではなく、何人かは「黙って殺されるくらいなら」と窮鼠猫を噛む姿勢に転じてもよさそうなものだ。
それが無理としても、こんな無秩序に行動するのではなく、気の合った者同士逃げるか、隠れるか、反撃するかなど、色々行動は分岐して行くはずだ。そして隠れながら「もし殺されても犯人を捕まえてもらえるように」と何か書置き(携帯のメモも含めて)を残すとか、逃げるにしても一塊にならずに移動して、玄関や裏口だけでなく各教室の窓からでも分散して逃げようとするものではないだろうか。
その意味では「バトル・ロワイヤル」での高校生の行動描写の方が有り得べき姿だと思える。
続編を示唆する終わり方だが、続編は作るべきではないと思うし、作っても観に行くことはないだろう。