「史上最悪の反面教師」悪の教典 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
史上最悪の反面教師
今更のレビューですが、まあひとつ。
邦画は感情面が複雑なんで、レビューを書くのにも時間かかるんすよね。
さて色々書きたいが、字数制限がキツイので要点だけを。
クライマックスの大殺戮が単調だとか飽きるとかいう意見を多く見受けたが、
そもそもこの映画はカタルシスや爽快感を感じるように作られていないと僕は思う。
同監督の『十三人の刺客』等を観た時も感じたのだが、
三池崇史監督ってひょっとすると、過去のバイオレントな作品群の割には生真面目な方だったりして。
というのも、
“ハスミン”の暴走が少しずつ加速してゆく展開やサスペンスとしての伏線の張り方など、
物語の語り口自体にはエンターテイメント性を感じるのだが、
最もエンターテイメント色を打ち出し易いであろう
大量殺戮シーンにはそれがまるで感じられないのだ。
スプラッタ映画的な快感は無い。同情の余地無く退場する人間は殆どいない。
人を喰ったユーモアも微量。趣向を凝らした殺しも無い。
淡々と、さしたる感動もなく、無慈悲に人が殺されてゆく。
そこに逆に惨たらしさと不快感を感じる。
(cmaさんがこの辺りを巧くレビューされていたと思う)
今でも頭にこびりついているのは、屋上へと続く階段での殺戮。
響き渡る悲鳴を気にもかけず、観客からは壁に隠れて見えない空間に向け、
ただ作業的に銃弾を撃ち込み続けるあの機械的動作。
あの鴉と同等、害獣か何かのように人が殺されてゆく。
まるで人の存在価値を否定されたかのような不快感を覚える。
死んでゆく者達の人物描写は浅いが、深いとかえって陰惨さが増して、
鑑賞するのが非常に苦痛になっていたかもしれない。
徹底的にリアルに描く訳でなく、写実性と寓話性のキワキワを行くような
仕上がりになっているのも、その辺りに配慮したサジ加減なのかも。
『殺人は不快な行為であり、この行為に娯楽性や美化すべき要素など何ひとつ無い』
冷ややかな声で、そんな言葉を言われ続けているような気がした。
“ハスミン”のキャラクターは強烈だったが、この物語はその解明に重きを置いていない。
精神疾患に関する様々な専門用語も登場するが、そんなものは所詮は唯の言葉だ。
彼の行為が人に与える感情——禍々しさや不快感——こそが僕らにとって意味を為す。
この映画を不快と感じる事に意味がある。
つまりは、その名の通り、反面教師的な映画なのだと感じる。
<2012/11/10鑑賞>