悪の教典 : インタビュー
ニヤニヤしながら聞いていた三池監督も、“弟子”の成長に目を細める。そもそもキャスティングの段階で、蓮実のキャラクターと伊藤をだぶらせていたようだ。
三池「蓮実はひとつは完全に欠けているけれど、他のものは大体持ってしまっている。なんか(伊藤に)似ていますよね? 役者を目指して夢をかなえて、『海猿』をやって同じ年にこの映画が公開される人って、世界中を見てもそうはいない。何かそういう強さを持っているんですよ。役者としての魅力、力も当然あるけれど、本能的に何かを吸収したいという動物的なパワーは持っていて、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』の撮影が終わった後は、蓮実みたいな感じでした。本人は夜のガンマンって言っていました。何か元から決まっていたような出会いがあって、そういう定めみたいなものを感じる俳優なんです。蓮実はクールじゃないといけないので、同じような目をしていても(殺りくを始めた)後半は明らかに狂っている。無邪気に笑う笑顔もウソじゃない。それもやっぱり怖いし、蓮実的だなあって」
伊藤「それは、うれしいっすね」
蓮実は、廃屋のような自宅ではほとんど全裸で過ごしているという設定。「海猿」同様、鍛え抜かれた肉体美を披露しており、伊藤は「あれはCGです」と謙そんするが、ここにも三池監督の意図がある。
三池「衣装は一応、用意してあったけれど、蓮実にとってプライベートでいるときは人の作ったものを身につけているとくつろげない、邪魔だと思ったんです。だから家にいると自然に脱いじゃうというか、そのまんまの自分でありたいという。衣装費を節約したわけではない。そこが蓮実らしいし、だから自然にいてもらって現場でも全裸でそのへんを歩いていましたから。女子スタッフも徐々に慣れてきていました」
伊藤「女子スタッフっていましたっけ?」
三池「いやいや、ほらね」
伊藤「そうか…。ヘアメイクさんとスタイリストさんは少なくとも女性でしたね」
その後のやり取りは割愛するが、ともあれ蓮実が魅力的なキャラクターとして確立されたことで、三池監督が貴志祐介の原作小説を脚色する際に心がけた、シンプルに群像劇の広がりを見せて最後は蓮実に集約させるという狙いは見事にはまったといえる。
蓮実に引っ張られるように、殺されていく生徒たちも壮絶な最期を遂げる。群像劇、ミステリーとして見応え十分で、結果、映倫規定はR15+(15歳未満入場不可)となったが、勝手知ったる三池監督にとっては想定内だ。
「バイオレンス・シーンを見せたいから蓮実を暴れさせたという見え方だと成人映画になっちゃう。彼の行動はそこまで否定できない。逆に演じている人に対する愛情が重なっていくと、バイオレンスが生まれるという結果に行き着くんですよ。そういう蓮実の純粋さを邪魔しないようには気をつけていました。でも、映倫さんが優しくなって良かったです(笑)」
伊藤にもフルスロットルでエネルギーを出し続け、新境地を開いたという自負が感じられる。「無理をして使った」というアラフォー(37歳)として、さらなる先を見据える頼もしい言葉が聞かれた。
「普段から何をみてどう何を感じ、どうやって生きるかが役につながっていくと絶対に思う。自分がやってきたことに勝るものはないし、それ以上を引き出してくれるのは監督、スタッフ、共演者の力。台本というルールブックは守らなければいけないけれど、はみ出してもいいと思う。そこで皆と戦って、どれだけ時間がかかっても面倒くさくてもぶつかり合えばいい。途中でやめないことですよね。30代の役者の面白さ、そして40、50、60、70、もしかしたら80代までいけるんじゃないかと思ったら、どんどん楽しみになってきた」
気が早いが、既に撮影を終えた来年放送予定のテレビ朝日のスペシャルドラマ「最も遠い銀河」、テレビ東京の新春ワイド時代劇「白虎隊 敗れざる者たち」で、さらに成熟した演技を見られそうで楽しみだ。そしていつか振り返ったとき、「悪の教典」がターニング・ポイントになったと言われる確信が得られた。