「一輪車の水平運動と花火の垂直運動」この空の花 長岡花火物語 abokado0329さんの映画レビュー(感想・評価)
一輪車の水平運動と花火の垂直運動
大林宣彦監督戦争三部作第一作。
凄い…。傑作です。
序盤の説明描写が怒濤すぎて、早送りでみているのか確認するほどでした。
本作は、新聞記者の玲子が、元恋人の手紙に呼ばれて、長岡を訪ねる劇映画ではある。しかし長岡で実際にあった空襲や災害、模擬原爆、戦争経験者/の語りも記録されている。そのため劇と記録の区分は溶け合って、真実だけが現れている。
それも時空間が縦横無尽に往来しているからだろう。過去ー現在ー未来の単線的な時間軸は、登場人物の花や戦争という〈出来事〉によって複線的になる。
戦争ーそもそも〈出来事〉ーとは単なる過去のことではなく、現在によって語り直し、未来においても語ろうとする運動の中で、常に生起し続けることである。その運動を記録するのが映画だと私は思う。
また空間について言えば、長岡での出来事でありながら、熊本の天草、長崎、広島、福島の郡山がつながっていく。そのつながりは戦争や核、災害の記憶によるものだ。
「想像力でみえるようになる」
それはフィクションの力だと思う。戦争は終わらずとも、〈私〉の経験と1945年や長岡に生きた人の経験を同一して語ることはできないし、してもいけない。けれどその断絶を悲観するのではなく、フィクションによって、想像力でみえるように、つなげることは私たちにできることだと思う。
合成で打ち上がる花火。花火が爆弾と地続きであること、その背後にある記憶や経験。それらは、想像力がなければみることができない。
一輪車の水平運動と花火の垂直運動。心と関係性と出来事の運動。私も運動を美しく記録したい。
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