劇場公開日 2025年11月14日

「おそらく公開当時とは観客の受け取り方が変化しているであろう点も含めて、現在鑑賞する価値が大きい一作」天使のたまご yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 おそらく公開当時とは観客の受け取り方が変化しているであろう点も含めて、現在鑑賞する価値が大きい一作

2025年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この物語を当時と同じ描写で作るのは、今となっては難しそう…、という鑑賞感でした。

『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』(1984)でアニメファンから高い評価を受けていたとはいえ、新進の映像作家の一人だった押井守監督が手掛けた本作は、天野喜孝のアートデザインも相まって、不気味で耽美的だけど不思議な余韻を残す作品です。

独特すぎる世界観と、それを説明する描写や台詞の少なさゆえ、公開当時多くの観客が戸惑い、結果的に本作は興行的には振るわなかったとのこと。

テーマを理解する難しさは今も変わらず、なんだけど、その後の『パトレイバー』シリーズや『攻殻機動隊』を手掛けた巨匠の初期作ということを踏まえれば、この時点からすでに作品作りを絶対妥協したくない、という強い意志を貫いていたこと、そしてその後手掛けた数々の名作の萌芽が本作に宿っていたことに気づかされます。

公開当時は本作に宗教性を見出す評論もあったようですが、現在の視点では、幼さが際立つ少女(声:兵頭まこ)に巨大な卵を抱えさせる、つまり妊娠期の女性を連想させる姿で描くところに、宗教性よりもまず倒錯性を感じてしまうし、彼女に同行する兵士と思しき青年(声:根津甚八)の存在も、少女の庇護者というよりも未成年につきまとう成人男性、という危うさを感じてしまいます。

こうした見方は、当時前景化しなかっただけなのか、あるいは公開から40年経って、観客の受け取り方が変わったのか、一考を要するところですが、現在、同じような描写で本作を作り直すことは難しいでしょう。その意味でも、リマスターという形で本作を観ることができる機会は貴重でした!

yui