「「幸福」に包まれた秀作」ル・アーヴルの靴みがき キューブさんの映画レビュー(感想・評価)
「幸福」に包まれた秀作
あらすじだけ見るとどんよりと暗い映画を想像するかもしれない。だが実際はまったく反対なのだ。
まず特筆すべきなのはこの映画が持つ「雰囲気」だろう。貧しい老人や移民問題といったリアルでシリアスな問題を描いているのに、どことなく能天気で暗い気分にならない。それがノルマンディーの風景と重なり合って、良い味を出している。現代の話なのに映像感や描き方がどことなく’60年代、’70年代を彷彿とさせる。何とも言えない不思議な空気感なのだ。
俳優達も良い。誰も彼もが一度見たら忘れられないキャラクターばかり。マルセルの見た目は決して「いい人」ではないのに、彼の行動や言動から彼が持つ優しさがあふれ出ている。仲むつまじい夫婦の様子も非常に好感が持てる。近所の店主達や靴みがきの同僚、さらには警官まで。みんな全くの「いい人」ではないが憎めない。これがこの映画を一筋縄ではいかない者にしているのだろう。そして唯一の純粋な良い子である移民の少年イングリッサ。彼とマルセルの無言のやりとりは何とも言えずおかしい。
ところどころクサイ台詞や、理想主義的な展開が鼻につく人もいるかもしれない。でもこの映画の登場人物と同じように、心からは憎めない。見終わった後は何とも言えない幸せな気分になれること間違いなしだ。
(2012年5月20日鑑賞)
コメントする