「とんでもない傑作」トロピカル・マラディ ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
とんでもない傑作
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の大傑作だ。
前半はタイの都市に生きる愛し合う青年の物語。猥雑な雰囲気のタイの都市部にエネルギッシュな生と性を感じさせる。後半は、とんでもない展開になっていく。後半は暗い森の中で、森林警備隊が虎に変身してしまった男を追いかける。何が起きているのか判然としない、だが、異様なすごみと深さがスクリーンから迫ってくる。前半の社会での営みはなんだったのであろうか、後半を観ているとよくわからなくなってくる。むき出しの世界が迫ってくるような感覚がこの映画にはある。森は人間社会のルール外の場所、そこに深く分け入る者は人間社会の外の理にふれることになる。木の上に猿がいて森林警備隊の男に語りかける。お前には虎の影がついてまわっているのだ」と。男は虎を追っているはず、しかし猿は虎はお前についてまわっているというようなことを言う。自分と虎の輪郭が定かではなくなっている。観ているこちらも自分が何者なのか、輪郭がぼやけてくる。しかし、それがなぜかものすごい心地よいのだ。
なんだか、とんでもないものを観てしまったという感覚に陥った。事実、これはとんでもない映画なのだと思う。
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