「キーワードは『永遠』」大奥 永遠 右衛門佐・綱吉篇 Rikoさんの映画レビュー(感想・評価)
キーワードは『永遠』
『巡り巡って また逢えたなら あなたと恋に落ちてゆきたい』…。
主題歌のこの部分が映画の核心といっても過言ではありません。
舞台は江戸。
徳川七代目・綱吉公が治める御代。
世間では元禄文化が花を開き、それはまさに元禄が徳川の最盛期であることの象徴のようでした。
主演の菅野美穂さんも仰られていますが、元禄時代という設定を受け、前作(徳川吉宗の時代)と全く反転しているのが、将軍・綱吉公のお召し物です。
菅野さん自身の美しさは言うまでもありませんが、今回使用された打掛はそれに劣らない、本当に華やかなものでした。
私が治める日の本は豪華絢爛、天下太平。
私は将軍・徳川綱吉−−−…。
翻る打掛の裾が、悲しいほどそう語っていました。
その裾が廊下の端に消えるまでずっと見つめていた男。
それが、堺雅人さん演じる、右衛門佐です。
右衛門佐は、京都の公家の出でありながら、生活は貧しく、初めて御台所(宮藤官九郎さん)に謁見した際に着ていた黒い狩衣も、糸のほつれた質素なものでした。
それがたちまち大変美しい裃に変わるまで、わずか数日。
彼は、彼自身の美貌と頭脳で、あっと言う間に大奥の実質上の最高位・総取締の座に登りつめます。
貧乏で惨めな暮らしから這い上がり、大奥で思うままに生きてやる。
京の溝鼠はそう誓うのです。
さて、この溝鼠が向かう先にいたのは、世間の噂とは真反対の、小さな小さな将軍様でした。
『将軍とはな、岡場所で女に体を売る男より卑しい女のことだ』
独りぼっちの白い鶴−−−。
その哀しい鳴き声に、右衛門佐は、泥の中から天を仰ぐ自分の姿と相通じるものを感じたに違いありません。
人間には生理的欲求と社会的欲求があります。
生殖し、子を成すことは、食事をしたり睡眠をとったりすることと同じくらい大事な生理的欲求です。
生き物である以上逃れられないその現実。
また、どれほど美しい着物も、いつかは色褪せ破れてしまうように、人もいつかは死んでしまうという事実。
そのような非情で厳しい世の中に、綱吉と右衛門佐の儚い恋はありました。
煌びやかな打掛を脱ぎ捨て御鈴廊下を駆け抜ける綱吉に待ち受けていたのは…。
人間とは。男と女とは。そして、生きるということとは。
右衛門佐の綺麗な眼差しのような問いかけに、深く深く心に刻まれるものがありました。