「日本最期の時、あなたの中の日本民族としての尊厳が示される」日本沈没(1973) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
日本最期の時、あなたの中の日本民族としての尊厳が示される
小松左京の大ベストセラー小説を映画化した東宝特撮1973年の作品。
2006年にもリメイクされたが、やはり何度見ても、この73年版の方が遥かに圧倒的に面白い!
東宝特撮屈指のスペクタクル超大作!
あらすじはタイトルの通りなのだが…
日本海溝の海底で、何かが起こっている!
火山の噴火に続き、関東地方を巨大地震が襲い、やがてある結論に達する。
日本列島は後、一年以内で沈没する…!
何と言っても日本各地を襲う天変地異の数々。
特に関東大地震のシーンは地獄絵図のような迫真さ。
この時期のゴジラシリーズは完全に下火になっていたが、東宝特撮が威信を懸けた底力が充分に伝わってくる。
中野昭慶にとってもキャリアベストと言っていいくらいの特撮演出。
人間ドラマも非常に重厚。リメイク版には無かった終末感が本作にはある。
本編監督は森谷司郎。
黒澤明の弟子と円谷英二の弟子。
かつて助監督時代、撮影の電力の取り合いで「天皇(黒澤)だぞ!」「神様(円谷)だぞ!」とやり合った二人。
そんなエピソードがある二人がタッグを組み、両者の並々ならぬ情熱が作品をさらに力作にしている。
お馴染み田中友幸製作の下、脚本に橋本忍、撮影に木村大作、音楽に佐藤勝、美術に村木与四郎と、スタッフ面でも黒澤常連組×東宝特撮班という豪華さ。
キャストも名優が揃い、中でも、鬼気迫る小林桂樹と丹波哲郎の抑えた名演が印象に残る。
日本が沈没する。
当時はきっとあまりにもセンセーショナルで衝撃的な内容だったろうが、災害続く今の方こそ妙な恐ろしさを感じる。
確かに本作はフィクションで、SFだ。
僅か一年の内に日本が沈没する事などおそらく無いに等しいだろう。
…しかし、
阪神淡路大震災、東日本大震災、そして今年西日本を襲った大豪雨…。
これらを想定する事は出来ただろうか。
想定内、あり得ないなんて言葉は絶対に無い。
本作はどうしても日本沈没の特撮スペクタクル・シーンに全て持って行かれがちだが、ドラマの方こそ注目して欲しい。
迫り来る日本最期の日。その時、あなたなら…?
海外に避難し、生き延びる。
生きてさえいれば、世界の何処かでまた巡り合う事が出来る。
それを感じさせるラストがとても好きだ。
そして、もう一つの選択は…
「何もせん方がえぇ」。
日本と最期を共にする。
生き延びて日本人の血を残す事は、民族としての使命だ。
しかし、運命を受け入れるのも民族としての尊厳を感じる。日本人ならば武士道に通じるものがある。
日本最期の時…
それは、我々の中の日本民族としての誇りが示される。
『日本沈没』に続編の構想があったのは有名な話。
難民として世界中に散らばった日本人たち。
日本民族のアイデンティティーをさ迷い問うと共に、離れ離れになった人々たちのドラマチックな再会。
そんな話を見たい。今でも作って欲しいと思っている。
リメイクなんかするより。