「理不尽なまでに素直な世界「宇宙」」ゼロ・グラビティ チンプソンさんの映画レビュー(感想・評価)
理不尽なまでに素直な世界「宇宙」
宇宙空間は振動を伝える気体が無い。
無重力である。
ごく当たり前の宇宙の認識を忠実に再現した作品はあまり多くない。
そのことについて観ている側もツッコミを入れない。スターウォーズの派手な戦闘シーンが無音だったらどうなるか、想像しやすい。
ただ、この映画がメインとしているのは「宇宙」という魅惑な、そして理不尽な世界の再現だ。
そこはまさしく人智を超えた世界。その世界に放り出されたらどうなるか。
実際に問題として取り上げられている宇宙ゴミは、この映画では忠実にその宇宙の理不尽さを表現する要素。
時速3万キロという速度で飛来するかつての宇宙船や人工衛星の成れの果ては、ネジ一本でも拳銃以上の破壊力を持っている。
それが他の物体に衝突すると、砕け、割れ、そしてその破片が再び時速3万キロで地球の周りを回る。
空想ではなく実際にそれが今起こっている。はるか上空で。
そして宇宙は理不尽なほどに素直だ。
人差し指が物体に触れると、触れた時の力によってその物体から身体が遠ざかる。
止まることはなく、新たに力を加えないかぎり、触れた時の力が永遠に働く。
そしてその力を生み出すためには人間の身体だけでは不可能。
この理不尽なまでに素直な世界で生きて還るためにもがく映画がこのゼログラビティだ。
ライアンとマットの2人だけという大胆な出演者数は、よりわかりやすく、故に恐怖を与えるにたる非常にシンプルな構成であり、
無音を忠実に再現した宇宙空間の表現が恐怖に拍車をかける。
また、単に宇宙が持つ恐怖の要素とは違う、主役のライアンの極めて人間的な心情が、宇宙と地上の印象を与える意味深なメッセージにも読み取れ、宇宙とのギャップを感じるものにもなっている。
残念だったのはBGMが前に出過ぎることか。
エンターテイメントを気にしたのか、BGMによる演出が過剰気味で、恐怖のベクトルが本来あるはずのない“音”によるものな部分が多い。
それを差し引いても、状況、映像から存分に恐怖を演出しているから別にいいのだが・・・