劇場公開日 2021年3月8日

「『庵野秀明が若者向けアニメがなるべき結末を実践して旧版にけりをつけた分岐点となる良作』」シン・エヴァンゲリオン劇場版 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『庵野秀明が若者向けアニメがなるべき結末を実践して旧版にけりをつけた分岐点となる良作』

2021年8月7日
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鑑賞方法:映画館

テレビと旧劇場版のみ鑑賞していたエヴァ弱者でもある自分だが、インプットとアウトプットつねにおこなう天才的な映像作家でもある庵野秀明の他の仕事についてはある程度追いかけていたので、確認作業のつもり鑑賞したが、オーソドックスな物語と爽やかエンディングには魅力された。

新劇場版を避けていたのは、旧版のモヤとした終わりと、それに伴いエヴァ自体への興味が弱いのも要因だったが、優れた作品であった『シン・ゴジラ』やゴシップではあるが、ガイナックス仲間への悲しみに満ちた絶縁状を知ることで本作への興味が湧き事前情報や信頼できるレビューアの記事や庵野監督のドキュメンタリーなどを見て鑑賞。

パリ上空でのシュールで迫力あるアクションと農村での生活により人間性を取り戻すシンジと綾波?達の姿をじっくりと描く事により後半の正統派で王道なクライマックスまで長尺を感じさせないパワフルな演出と映像に見て良かった感じるラストまで全編楽しめた。

特にクライマックスの艦隊戦は、庵野監督のデビュー作の『トップをねらえ』やテレビアニメ『不思議の海のナディア』を彷彿とさせて最終決戦にふさわしい盛り上げがある。

個人的に気になるは、前半の見所でもある農村部分で閉ざされた人間性を癒すのは素朴な田舎暮らしで農業は、随分とありきたりで幻想的に感じる。
NHKのドキュメンタリーなどで見る限り、小洒落たデザイナーズ・オフィスやマンションに住んでいる都会人でもある映像クリエイター達が、癒しとしての農村幻想を抱いているとしか思えないところもあり農業の考証もしっかりされているみたいだが、機械化されてない農作業や現在の制度によって疲弊して高齢化する農家の過酷な現状などを知っているとノンキなモノだと思う。

凝ったレイアウトとカメラワークも素晴らしいが、老婆心ながら一部女性キャラクターを視姦する視線は、近年問題化しており、のちの作品批判にも繋がる危うい点だと思う。(メインのスタッフも客層も男が多いからかな)
あと新規キャラのマリのいかにもアニキャラ的芝居かかった口調の強調や身体的特徴や「巨乳の彼女」な台詞を本人に言わせるのもアニキャラの胸を揺らして喝采を浴びていた30年前ならともかく近年の感覚だと違和感しかない!(80・90年代に合ったダメなラブコメ漫画の人格のないヒロインの系譜かな)
ちなみに師匠的立場の宮崎駿監督の代表的なキャラクターであるナウシカの胸が大きいのは、宮崎監督曰く母性への憧れと強調らしい。そこをマリに組み込んだのかな?

個人的に印象に残っているのは、林原めぐみが歌う「VOYAGER〜日付のない墓標」の選曲が見事過ぎてこの映画の為に作られた曲だったのか?と錯覚する程、場面の説明になっている。音楽で語り過ぎと思う部分も有るけど多くの人々を惹きつけるには、分かりやすくエモーショナルなところも必要。(しかし林原めぐみは、ガイナックスのアニメでも懐メロである「あなたの心に」をカバーしていて妙にハマっていたのを思い出す)

あと今回のラスト見て思ったのは庵野秀明が途中まで手掛けたTVアニメ『彼氏彼女の事情』の主人公で、庶民派仮面優等生?の宮沢雪野の彼氏になる有馬くんの深いトラウマの克服と再生の物語がシンジくんやゲンドウとダブる点だが、アニメは後半の作画の乱れや構成に難があり未完で終わっている。
漫画原作は今回のエヴァに近いカタチで大団円の完結をしているので、それのアンサー的雪辱も兼ねていると思う。(この作品も実写を試験的に導入していて庵野監督の実写志向が本格化してきている)

庵野秀明は、インプットされたものを的確に優れたカタチでアウトプットする天才だと先にも述べたが、正直女性キャラへのアプローチや扱いが記号的だったり歪がんでいると感じる事が時折ある。(ただし庵野秀明は若い頃から結構モテたとの話しも聞いているので女性慣れしてない訳では無いと思う)

細かいところに文句もあるが見事な大団円で物語にケリをつけた庵野秀明監督の次回作に期待しているので、ウルトラマンや仮面ライダーなどもとても期待している日本を代表する映像クリエイターだと思う。

ミラーズ