「身も心も引き込まれる冒険物語」ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日 DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
身も心も引き込まれる冒険物語
原題:「LIFE OF PI」
邦題:「ライフ オブ パイ、トラと漂流した227日」
原作:「パイの物語」ヤン マーテル
監督:アング リー
題名の通り16歳の少年がインドからカナダに渡航する途中で 海難事故に遭いトラと救命ボートで漂流した末に救助される冒険物語。
ストーリーは
パイは動物園を経営する父親と教養ある母親とに間に生まれ育った。数学に出てくる、割っても割っても割り切れない円周率のパイにちなんで名前をつけられた。幼い内から よく勉強が出来て、パイがスペルが「PI」で発音するとピー(おしっこ)とも読めるために、小学校で虐めにもあうが 逆に秀でた知識で生徒ばかりか先生方からも尊重させるようになる子供だった。ヒンズー教だけでなく、イスラムにも仏教のもキリスト教にもユダヤ教にまで 改心し、すべての宗教と自分は協調して生きていけると信じていた。そんな一風変わり者のパイも16歳になり、美しい少女に恋をする。 しかし家族はカナダに動物園ごと移住することに決めていた。
大型貨物船に沢山の動物達や彼らの食料を乗せ、家族の旅が始まる。しかし、出航してしばらくすると嵐に遭い船は沈没、パイは傷ついたシマウマとともに救命ボートで脱出する。嵐が過ぎ去り、パイは両親も兄弟も失ったことを知る。
運良く生き残ったオランウータンを海上から拾い上げ、ボートに積まれた非常食を探索していると、救命ボートの船底から獰猛なハイエナが飛び出してくる。ハイエナは傷ついて動けないシマウマとオランウータンを襲う。パイの素手では、小さなボート上の殺戮を止めることができない。しかし、船底には、ハイエナをも簡単に食い殺すトラが潜んでいたのだった。トラは次々と動物を餌食にする。パイは寸でのところで、いかだを作ってボートから乗り移り、トラの攻撃から逃げ延びる。
救命ボートのトラと、それにくくりつけられた、いかだに乗るパイとの生存をかけた闘いと漂流が始まる。 パイは、いかだで雨をためて、魚を釣って生き延びる。そしてボートに移って、トラと水と食料を分け与える。トラが空腹に耐えかねて飛び魚を追って、海中に飛び込むと、その隙にボートに乗り移って、救命ボートの船底から水や非常食を取り出す。パイとトラは、何十日も漂流し、いくつもの嵐を乗り越えるうち、互いに生き残り同志の共存関係が出来てくる。パイは、トラが生きているからこそ自分も生きる意味を持つことができるのだということを知る。
227日たった。とうとう、島にたどり着き、ボートが砂浜に打ち上げられるが、パイにはもう砂地を立って歩く力がない。トラはボートから飛び下り、林に入って行って姿を消した。林に姿を消す前に 一度だけ振り返ってトラはパイを見つめた。
というお話。
冒険小説でお伽噺だが、とても映像が美しい。3Dの必要はない。3Dでなくても充分過ぎるくらい自然が美しく描かれている。大海の日の出と日没。輝く果てしない海の大きさ。くらげが漂い、鮫が回遊し、巨大な鯨がボートをかすって行く。荒れる海、なぎの梅。海の表情を映しだすカメラワークが秀逸だ。
映画のはじめのころに、出てきて、回想の形で繰り返されるインドのまばゆいばかりの色彩の多様さ。色とりどりの花々、インド舞踊の衣装の美しさ、香りたつようなインドの少女たちの美しさにも心奪われる。
おまけに、コンピューターグラフィックで、ここまで出来るのか、と驚くほど動物達の表情が豊かで動きがリアルだ。トラがパイと漂流するうちに段々とやせ細り、最後に林に姿を消す頃には 骨と皮になっている。とてもリアリテイがある。
トラはリチャード パーカーという名前を持っている。エドガーアラン ポーの「ナンタゲット島出身のアーサーゴードンビムの物語」という1838年に書かれた恐怖小説があって、小説の中で4人の男が海で難破した末、リチャード バーカーという男が3人に殺されて食べられる という話がある。で、実際1884年に実際に、同じ状況で、カニバリズムがおこり、偶然殺されて食べられた男がリチャード バーカーという名前だった、という記録が残っている。本当だったら、ポーの小説よりも怖い。
しかしこの映画のリチャード バーカーというトラは、むしろ、ヒンズーの輪廻思想で、トラは人の生き代わりなので、大切にしなければならないという思想からきているのだと思う。パイの動物園では このトラは始めからリチャード バーカーを呼ばれて尊重されていた。
貨物船の食堂で働く、人種差別でタチの悪いコックが出てくるが、彼はジェラール ドバルデュー。フランス人の役者だが、最近、フランスにこのまま居ると収入の65%を税金で取られるばかりなので、と、国籍を捨ててロシア人になってしまったことで話題になった。
この映画で、残念なのは、モノローグがインド人独特の強いアクセントの英語で ものすごく聞き取りにくいことだ。英語で語ってくれるが、英語の字幕をつけてもらいたかった。
でも身も心も引き込まれる冒険物語。 文句なしに映像を楽しめる。
本当に美しい映画だ。