「語りすぎず、照らしすぎず」カミハテ商店 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
語りすぎず、照らしすぎず
ラストが、絶妙。
ここで終わってほしい、という瞬間に、画面が暗転した。よしっ、と心でひそかに膝を打ち、思いきり余韻に浸った。
自殺の名所とされる断崖のそばで、小さな店を営むヒロイン、千代。彼女は淡々と自殺志願者に牛乳とコッペパンを売り、帰って来ない者の靴を持ち帰る。
ここで終わるのかな、というくだりは中盤にあった。でも、そこで終わるのは「自殺はいけないこと、否定すべきこと」という正しすぎるメッセージにならないか。はてさて…とはらはらしていたら、すっと物語は続いてくれた。うれしい裏切りに安堵する。では、どのように幕切れへ向かい、決着するのか? 新たなはらはらを抱きながら、ひたすらスクリーンを見つめた。
つくられた物語には起承転結がある。例えば、ハッピーエンドはすわりがいい。けれども、実際の人生はその先も続く。小さなエピソードが幾重にも繋がり重なり、後々で思いもよらぬ意味を持つ。矛盾しているかもしれないけれど、本作は、そんな実生活に、より近いフィクション。ドキュメンタリーをこつこつと丁寧に作り上げてきた、山本起也監督ならではだと思う。
加えて印象的なのは、舞台となる山陰の小さな港町を照らす光だ。千代の心境の変化を表すかのように、前半と後半で光のトーンが一変し、さらには物語の起伏に合わせて細やかに変化する。特に、ラストで彼女を照らす光の力! 自然光が、ここまで物語るとは驚いた。
光と音、そして人々の佇まい。細部まで作り手の想いが伺える。けれども、それらをすべてを見逃すまい、聞き逃すまいと気を張ったり、暗喩を読み解いたりすることにこだわる必要はないだろう。むしろ、その時の自分にふっと引っかかるもの、すっとしみ込むものを大切にしたい。そして、共に観た人と分かち合いたい。そう思った。